夫の夏
長押 新

オホホホホホ、
マアこんな時間だワ!
帰らなくっちゃ
帰らなくっちゃ
帰らなくっちゃ

日焼けした夫が
冬になる前の、今日のような、
黄色い夕方に、
うんと、沢山の、
栗やら、芋、
鮭、秋刀魚やらを、
シビックのTypeRに詰めて、
秋を、
連れてくるんですノ、
横腹に、まだ若い落ち葉を付けて、
シルバーの、シビック!
聞こえる、夕立の音、
少し錆び付いた、ブレーキの、
音、
夫の、足には、ビーチの砂が、
着いたままですけれども、
濡れたサンダルは、
海の匂いが、消えてしまっていて、
玄関で、靴を脱ぐと、パラッ、
パラッと落ちるんですノ、砂
その砂を、踏むと、
足の裏が痛いでしょう、
チクッ、
チクッと刺さって、
彼ら、砂たちは、
一粒になると、
鋭く、
柔らかなビーチを脱いで、
それだから、
掃除機で、丁寧に、
吸い、尽くして、
しまわなければなりませんノ、
夏には、
赤い色だった夕暮れが、
すっかり、黄色に変わったら、
それが、合図ですノ、
ホラ、今日のような空の、色
もう、ずっと耳の奥で、
鼓膜に触れるか、
触れないか、
そんな境目で、夫の、
笑い声が、
聞こえてきますワ

オホホホホホ


自由詩 夫の夏 Copyright 長押 新 2011-11-25 18:49:06
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