エジプトの木
吉岡ペペロ
バックパックしてた頃の話だ
小屋みたいなバス停だった
そのバス停にはとうとうバスが来なかった
あたりは畑で夜は誰もいなくなった
月明かりで視界は良好だった
平安時代ってこんな感じだったのかな
仕方ないからそこで寝た
低い唸りが聞こえて目を覚ますと
野犬が数匹集まっていた
うち一匹はどこか怪我をしているのか
それとも興奮しているのか変な動きをしていた
ぼくは煙草を束にしてそれに火を点けた
煙りが野犬の方に向くようにして
一本の木の方に歩いていった
走ったら追いつかれる
噛まれたらえらいことになる
<邦人バックパッカー
エジプトで野犬に襲われ死亡>
そんな事件があったかどうか思い返していた
ゆっくりゆっくりと歩いた
木にたどり着くと一気にそれを登った
野犬は追っては来なかった
すぐどこかに消えてしまった
人家の明かりがひとつも見えなかった
ぼくは朝まで木のうえで過ごした
あの木のうえで考えていたことと言えば
本当に好きなひとなんて現れるのだろうか
そんなことだった