エジプトの木
吉岡ペペロ

バックパックしてた頃の話だ

小屋みたいなバス停だった

そのバス停にはとうとうバスが来なかった

あたりは畑で夜は誰もいなくなった

月明かりで視界は良好だった

平安時代ってこんな感じだったのかな

仕方ないからそこで寝た

低い唸りが聞こえて目を覚ますと

野犬が数匹集まっていた

うち一匹はどこか怪我をしているのか

それとも興奮しているのか変な動きをしていた

ぼくは煙草を束にしてそれに火を点けた

煙りが野犬の方に向くようにして

一本の木の方に歩いていった

走ったら追いつかれる

噛まれたらえらいことになる

<邦人バックパッカー

エジプトで野犬に襲われ死亡>

そんな事件があったかどうか思い返していた

ゆっくりゆっくりと歩いた

木にたどり着くと一気にそれを登った

野犬は追っては来なかった

すぐどこかに消えてしまった

人家の明かりがひとつも見えなかった

ぼくは朝まで木のうえで過ごした

あの木のうえで考えていたことと言えば

本当に好きなひとなんて現れるのだろうか

そんなことだった







自由詩 エジプトの木 Copyright 吉岡ペペロ 2011-11-25 00:05:56
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