嘘っぱち
nonya
猫を撫でたあとで
優しさは書かない
返信を待ち焦がれても
淋しさは書かない
軍鶏鍋を食ったからといって
美味しさは書かない
マニュアルをなぞったつもりで
愚かしさは書かない
鼻で唄っているけど
楽しさは書かない
キーを叩きのめしながら
痛々しさは書かない
照れながら手をつないでくれたのに
温かさは書かない
相手にされないという理由で
分かりやすさは書かない
強い酒で性根を消毒して
愉快な戯言で重力を忘れて
宇宙人だか妖怪人間だかになって
帰巣本能だけで帰還した朝の
虚ろな風景の裏側に
べったり塗りつけられた苦さは
頼まれても書かない
書くのは
マネキンの体温だ
書くのは
造花の花束だ
書くのは
可憐なペテンだ
書くのは
リアルな嘘っぱちだ