りんご
寒雪


水あかの目立つ
くたびれた流し台に立って
不器用に皮をむいたりんごの
やけにざらざらで
ぼくの手でさらけ出された
瑞々しい果肉の表面を目の当たりにして
なんだかぼくの心のどこかに
いろんなものに隠れて見えなくなったと
思い込んでいた心のひだの在り処を
思い出させてくれて
一人はにかんでりんごの真ん中に
包丁を突き立てて真っ二つに割る


おいしくいただいたりんごの
食べ残しが少しずつ茶色くなって
あの瑞々しかったりんご色が
陵辱されていく様を
意味もなく見続けている
やっぱり塩水につけておかないと
だめだったんだな
昔母親に教わった知恵が
ここぞとばかりに心の中を駆け巡る


夕方5時を知らせる自治区のチャイム
予期せぬ大きさにぼくは驚いて
それから今更だと思いながらも
残ったりんごを塩水につけて
冷蔵庫の目に付く場所にわざと置いて
音がしないようそおっとドアを閉めた


自由詩 りんご Copyright 寒雪 2011-11-19 12:44:20
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