殺風景
faik

顔を上げるとそこは晴れ
雲が犇めく青い空
或る者がそれを美しいと尊び
まるで人の心みたいね、と
浅はかなリリックを書き連ねる
それと恰度おんなじ頃
社会生活にあぶれた蛇が
安アパートのポストでくだを巻き
埃という埃をその身に纏い
自分は選ばれし人間なのだという真理を得た

あれが罪か
君が罪か
奴が罪か
わけも分からず
きみは泣く

愛をおくれと賛美歌を口ずさむ売女は
齢十五にして酸いも甘いも絶頂も困窮も
薄情なゴム膜とスモッグ越しに学んで嘆き
劣悪なスピーカーから流れ出す
先陣に履き潰されたパンクロックを
盲信し盲進し果てに妄想の輪廻からも 潰え
かびたブーツの内に邪悪な声をまき散らす術を得た

それが答えか
それが答えさ
それが答えだ
なにをこれしき
きみは泣く

たかが百八の布切れからなる
実に単純な幾何学模様を
浮世の煩悩と誤認したアパレル少女は
鋏片手にアウトロー気取り
上司にしこたま詰られ 諭旨免職
社会生活にあぶれた蛇を女の罠でとっ捕まえ
鬼の形相で蛇皮線を量産し事なきを得た

それは名誉だ
それは栄光だ
それは青春だ
うそはっぴゃくに
きみは泣く


かなしいよ
さみしいよ
会いたいよ
話したいよ
抱きたいよ
締めたいよ
壊したいよ
出来ないよ
風が強いよ
空が汚いよ
歌えないよ

ぼくは泣く

まるで宇宙にでもなったつもりで
大層おおげさに ぼくは泣く
流れもしない涙の中に
くたばりきらねえ感傷の内に


自由詩 殺風景 Copyright faik 2011-11-18 16:09:51
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