揺曳
伊月りさ
肋骨の奥
さざめく内海
水面には
破砕された斜陽が撒かれていて
大都会みたい、
いつか つながっているという証明すらあった
いらない町みたいだね、
と つぶやくにも莫大な筋力が必要だということ
きみとなら共有できる
気がする、
秋だからかな、
切るってどういうこと、
わたしはずっと沈められているからわからない、
どこからがわたしの家で
どこからがきみの家で
いくら目を凝らしてもわからないのに
さようなら、は水も切れるの、
と たいせつなきみが
つぶやく
おとうさんとおかあさんはりこんしたんだよ
わたしりこんってよくわかんない
りんごににてるね
かわいいね、おかあさんいなくなっちゃったんだ
あ、ちいさいきつねのこえかも、りこん、りこん、
ちいさいきつねはさびしいんだね
ひとりぼっちだから
夕方の欠片に
切り裂かれていく
きみは だれも触れない骨の裏側
静寂
手の甲に刃を立てられても
手の甲が赤い網目のようになっても
優等生のようにじっと腰かけて
皮の裂ける音も
血の滴る音も
させず
にぃっこりしておくの、
わからないのだもの、これが
切られているのか、
つながれているのか、
証明できない、
と たゆたう
きみの周囲にできるかすかな波紋だけ
わたしに語っている
ような気がして、
肋骨の奥
さざめく