ハネムーン
かいぶつ
嫁入り道具に緑黄色野菜
箪笥の中に
新しい郁ができたから
外套を仕立てて
真冬の海を越えよう
汽船は
象の浅い眠りを北上する
腐葉土の寝台の上で
僕らは窓枠を外し
マッチで焼き殺したあくびを
空へ離した
あわびの肝を食べて
片耳が取れた猫が
吊り棚の上で占う天気は
深刻な雪を予報する
明日は黄色い長靴を忘れないで
まだ未完成な街には
未熟なひとたちが集まって
二階の窓から
紙ヒコーキを飛ばしている
それが言葉の
代わりのようなものだった
僕ら
炊飯器を買い替えた日に
夫婦になったばっかりなんです。
そう言うと一人が
真っ白な紙ヒコーキを
勢いよく飛ばした
すると次々に
窓から紙ヒコーキを飛ばす人が現れ
空が紙ヒコーキでいっぱいになり
僕らは初めて僕らの結婚を
祝福された気がした
旅にはトラブルが付き物で
その街でいちばん
背の高い人の三角帽を
街でいちばん高い電波塔と間違えて
登ってしまったり
羽毛布団と間違えて
動物園に入ってしまった
動物園に行くと
檻の中を走っているのが
象やキリンではなく
ショベルカーやトラックで
小学生たちがそれを真剣に見つめながら
ナンバープレートに付いた泥まで
細かに画用紙へ描写していた
先生は「表情を良く見て描きなさい。」
と教育している
僕らはなんだか
ホームシックにかかり
真っ白な雪が降り積もって
すっかり景色の変わった夜道を
あさっての方向に帰らぬように
なるべく大きくて
疲れた人の足跡を頼りに
帰り路を探した
部屋に戻り
静かに引き出しを閉めると
最後に箪笥の奥から
微かに波音と
汽笛信号が聞こえた。