白文鳥
乾 加津也

朝ひとつ
文鳥を買う
老朽の小鳥店で囀るけたたましさに呆然として
毱のような歪んだ標(まと)を見上げた

アクリルを
内側を
痛めつけながら悲鳴(いのち)は
雛たちから剥がされ

まるでバナナ箱を重ねるかのように
手荒で間に合わせの棲家から
どんどん床までの筋をつくって互いに絡みたがる
裂かれた空間の向こうから充血は光を吸着する
湯浸しの粟を何度流しこんでも
空洞を上下に振動させるばかりで
闇雲でもなんでもいいからいのちを象りたいですという
虚勢

わたしが買えば
力なく
くだと直角に交わる平原に移住するのだろう
内耳をとおるたびに
濾される奇声は嘘の祈りで
ほんとうになりさがるだろう

夏を呼び
白をあびる
逞しい工場のような人が
開いて見せろ
皺のないわたしから開かれる十本の塔
たち昇る色とりどりの蜃気楼
こんどはわたしが
小さなものたちの
手まねきを憶え ぬくもりを数える国土となる
握りしめればアクリルの音がして
そのままわたしの
うまれたての眩しさ高原まで
屍までの時間をかけて
横たわる
まっすぐとは
このこと

あのとき
あの場所から走れなかったわたしのとうめいに
なだれ込んだ
傷だらけの
匂いのこと


自由詩 白文鳥 Copyright 乾 加津也 2011-11-12 11:30:54
notebook Home 戻る