脳男・マストダイ
ホロウ・シカエルボク





イラついて
鬱血した脳髄をガリガリ齧りたくて、どうしてもそうしたくて
釘抜きで顎を削っていたら鈍臭い音がして
俺の口腔には脳漿の雨だ
舌の上に降るたびに目映い光が…
それは次第に勢いを増し、点滅は次第に浅くなり…

常世の光!(;゚∀゚)=3ムッハー

俺は口を強く閉じた
「こぼしては駄目だ、俺が俺でなくなる」
脳漿は喉笛を伝い食道から胃袋へ、そしてあらゆる腸を通り…
排泄されたくない、排泄されるとどのみち駄目だ、という
俺の焦りを笑うかのように見事に消化吸収され
肉体のあらゆる部分でそれは新しい思考形態となった
能動的でダメージを受けることがない、最高の状態だ
俺は脳挫傷で死ぬことだけは無いと思った
それがリメイクされた脳漿を手に入れた俺が最初に知ったことだった


反射神経に及ぼす作用は驚くほどだった
例えば魚を食べていて醤油が欲しいと考えると
醤油の瓶はしょ、のあたりでもう手に取り魚にかけて食卓の上にあった
運動能力も格段に変わった
夜中に試しに走ってみたのだが
どんな乱暴な自動車も俺には追いつけなかった
息すら切れることがなかった
そうか、脳梗塞とかで死ぬこともないんだな
さてこんな素晴らしい状態でどんなことをしようかと俺は考えた
考えた、と言っても熟考する必要などまるでなかった
仕事や遊びをこなしながらでも簡単に様々なことを考えることが出来た
どうせなら面白いことをしようと思った
「造花作りやら封筒張りやらの内職で大金を手にしてやろうじゃないか」
俺はそれまで通っていた仕事をやめて
様々な内職に手を出した
疑われない程度に遅くしながら回して行くと
ひと月で200万の収入になった
俺はさらに仕事を増やし、一括で豪邸を買った
内職を続け、お稽古事をいろいろと始めた、楽器やスポーツ、料理や裁縫など
そして身体を鍛え…ようと思ったが
少しの動作で筋肉が膨れ上がってしまうので止めにした
○ーキャンを利用して資格も取った
もうどんな仕事にも就職出来るぜ、就職なんかしないけど
やることがなくなってしまうと
肉体の外側や内側を自由自在に操って遊んだ
血管の形を8分音符にしてみたりとか
337拍子で心臓を動かしてみたりとかしてね
それからベランダに出て喉を開き
最高にいい声で叫んだ



「退屈だぁ――――――――!!!!」


そう、すぐに用事が終わっちまう
ためしに就職してみたが
能力が違い過ぎてイライラしてしまう
競歩で日本一周を試みたが
のんびりしたのに1週間で終わってしまった
スタンプラリーを見てもなんだか実感がない
久しぶりに詩でも書こうかと思ったら
「やることがない」という言葉しか出てこなかった


退屈だ、退屈だ、退屈だ、退屈だ
たいくつだたいくつだたいくつだたいくつだたいくつだ…
おれはせいしんかいになってじぶんをしんさつした
あっはー
くるうのもとてもはやいですね
おまけに
しねないんですよ?





自由詩 脳男・マストダイ Copyright ホロウ・シカエルボク 2011-11-08 23:13:10
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