銀河とんぼ姫
砂木

若い頃 林檎畑で見た光景
霜柱で凍る草の下に倒れるとんぼと
そのとんぼの上を 何度も上下に飛び
まるで助けようとするように 凄まじい気を
放っていたとんぼ つい 凍りの中から助け
しばらくしてから 目の前に飛んできたカップルのとんぼを
お礼を言いにきたように感じた

あれはなんだったのだろう 助けようとしたのは
なぜかメスだと思った バチッバチッ と
雷がとどろくような 空気を切り裂く気だった
静様を ふと思い出す 源義経の愛妾 静御前
私は昔から 舞姫 白拍子 静御前が好きだった
敵方 源頼朝に捕らえられ 子を殺され 命乞いするためには
頼朝を讃えねばならなかった 強制された舞の奉納の時
居並ぶ敵方の武将を向こうに回し 
一歩も引かず 義経への思いを舞った
刀でも矢でも断てなかった 舞姫の想い

あのとんぼ達は 生まれ変わった 義経と静御前ではないのか
それだとわかる 時を越え姿を変え 巡りあったとんぼ達
寄り添い生きる事を約束した者達の 世を忍ぶ仮の姿
ああ でも 義経は最後にたてこもった所で 愛妻と愛娘を殺し
自害したとも聞いた 私の想像は 亡くなった愛妻と愛娘に
なんだか申し訳ないような気がする でも なあ
舞姫が命を投げ出して 夫や父のために舞ったというのは
女同士 天晴れと思わないでもないのではないか
とんぼになって また逢瀬をするくらい 大目にみるのでは
いかん すっかり妄想が進んでいる

霜柱の上の夜空には くっきりと星が光る
この地球のある銀河もいつか アンドロメダ銀河だったかと衝突
融合するらしい ああ そうしたら 別れ別れになった者達みんな
姿も時も思いもすべて爆発して みんなみんな また一緒だね
逢いたかった もう手も声も 何も無いけど 会えるね やっと
銀河ひとつの爆発で逢えなかったら また次の時 そしてまた次
知ってる 別れじゃない 心はひとつなんだ 銀河だけが私を運べる

羽と細いながらも手があるのに 舞と命があるのに
救えなかった でも 時は巡り 時は満ち

憧れの舞姫 静御前様
あなたに似た とんぼがいたよ







自由詩 銀河とんぼ姫 Copyright 砂木 2011-11-08 20:39:57
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