八重桜を真理だと仮定して
N.K.

朝 いつも降りる駅の
一つ前の駅で 
朝急ぐ人たちばかりで
ロータリーの八重桜は 
ほとんど返り見られることがない

駅の跨線橋を
見上げながら歩いてくる顔は
八重桜を背にしながら
これから始まる一日に狙いを定めている

4月の下旬ならちょうど咲き始めたつつじを見る顔だ

この駅のロータリーでは
八重桜の木がひっそりと
乗客たちを見つめ立っている 
6時45分過ぎの
この駅で急行待ちをする
朝の準急やら普通列車は
中に青白い周回遅れの顔をした乗客がいて
一日の始まりを上目づかいで窺う

八重桜が真理を表すとしたら
人はなぜ背筋を伸ばして八重桜に背を向けるのか
真理である八重桜には
真理から逸れて目的的に進んでゆく群れは
どこに向かって進んでいると見えるのか

すぐそこに真理があるというのに
我々は大挙して真理から逸れて行く

急行待ちの時間
急行がすれ違う頃に
八重桜/仮定上の真理が
厚い花々のヴェールの奥に
枝々を伸びやかなほど広げていることに気づいて
自分の周りのささやかな上下左右にも目を止める
「真理は私を自由にする」
それで
身を固くしたままの上目づかいを止めて
私は手を動かしてみた
つまりは祈ったのであった


自由詩 八重桜を真理だと仮定して Copyright N.K. 2011-11-06 07:30:59
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