まくらむすび
Lily Philia




 あたしは横になって、
 沈んでくるのか
 立ちのぼっているのかわからない
 ゆきひらのようなそれをみている。

 明日のことなんて
 しらないから
 波間に間に消えてゆく
 ゆきひらのように数えている。

(きれいだよ。
(きれいだよ。
あたりを手当たり次第に埋めてゆくたくさんの影。
浸透率はとても高い。

なにかの終わりのようにみていた。


波間に間にわけ入っては消えてゆく
頭上からは光
幾本もの柱
ひかりのはしらが立ち上がってゆく
(確かな通過)
揺れていた天井がいっせいに割れて
幾千にもくだけ
新しい名前を授かるあたしたち
遠くつま先立ちで
なんどもぴかぴかの泡の上を歩く星座の行進
(しずかな限界)
満ちてきた波打ち際が髪を濡らし
つよく つよくて
あたし 目を閉じてしまう
(水平線の呼吸は起伏する胸郭をなぞり)
あたしは目を閉じてしまう
よこたわる肌 そのままに
砂柔らかく くいこみ
浜辺は白くて
傷つくほどに白くて
寝返りをうつだけの 波
光きれぎれに
かけら こぼれる
波しぶき ひとあしごと
影おとして
(爪先から火柱)

あたしはゆっくりと
沖の方へと視線を移す。


 (飽和する声。
 ひかり、ちるといい。
 ひかり、ちるといい。
 (それでね、ただ一つの一等星なんです。
 ちればいい。もっと。
 (南の一つ星っていうんです。
 (ほら、魚の口のかたちをしているでしょう。
 (あたし、知ってるわ。フォーマルハウトっていうの。
 視界がわれる。
 ぶつかれ。ぶつかれ。
 (星雲、満月の五倍です。
 (星雲、満月の五倍です。
 (魚の口のかたちをして、
 (秋の空ただ一つの、
 ひかりよ。
 (そう、ただ一つの、
 (そして、終わるんだよ。
 閃光の、満月を五倍に
 まきちらして
 (夏が、終わるんだよ。
 (あわく南の低空に、
 音の群れがやってくる。
 星座たちは波の手に支えられ
 (危なげな爪先で
 溺れるようにばたあし)
 ばらばらになるほど
 美しかったの。
 やがておしまいの音楽がした。
 (沖は急激に晴れてくる。
 明滅しているものは
 順番に順番に
 かみさまの掌へかえってゆく。)
 あたしのなかに強力にふりつもってゆくもの。
 (ああ、はねおとだ。)
 そして上手におしまいを告げた。
 

 ((屋上の鉄錆びた柵、やさしい骨のような感触。
 しろいはね。はね。これは、はねのおんがく。
 (くちうつしでこきゅうにふれる)
 (ほそく こわれた なきごえ)
 (はばたくような なきごえ)
 うまれるためにこえをあげるの。
 (柵にひっかかったスカートがやぶけて)
 はね。こげたはね。逆光の中をとびちって
 とびちって 飽和するひかりの中から。
 (不安な両腕で)しろく しろく だいていた。
 ああ、またか。天井がゆれている))


(歌のようにも鐘の音)
青い青い夜が満ちてきて、
うづまきみたいな夜が
世界ごと海に変えてしまった。
ここは空瓶の中みたいよ。
ピアノがつまずきながら
かみさまの歌を鳴らしている。
(懐かしい匂いがした。)
ベットの上に星座表をひろげ
ここいっぱいにかみさまがいるんだって
あたしはいつまでだって信じていた。

月のきれいな夜に
夢であなたとはぐれて仕舞わないように
あたしはしっかりと目をつむろう。

天使のね、天使のね、
鍵盤を転げおちる音が
いっぱいに溢れてしまって
あなたは、眩しそうに
目を細めて笑っていてくれたら嬉しい。

あたしは満たされるってことを知る。

 (天の川は、
 はるかかなた、
 深い夜へ身をあずけたまま
 寝そべっている。)

あたしの爪先では
今日も波が寝返りをうつ。








自由詩 まくらむすび Copyright Lily Philia 2011-11-05 21:18:52
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