エリタージュ
橘あまね

綿毛の海で泳ぐ
後ろ姿を探す
秋の始まる午後に
あたたかさとつめたさの両側から
等しく守られていることを知った


星の人から届けられる
言葉によらない通信を
言葉に変えようとする拙い試み
不完全な僕たちには
気づくだけでは足りなくて
確かめるための言葉が必要だから
星の人のかわりに
世界を描く

星の人は世界を描かない
描かなくても
彼はもう世界そのものだから
僕たちが怒り、泣き、笑う
営みの全てを見守る視点そのものだから


愛される方法がわからなくて
恐ろしい夜に幾度も
肌を裂いた少年が
大人になっていく
深く刻まれた痛みも
糧になること
同じ痛みを持つ人を包むための
糧になることを
星の人から教えられて
愛する方法を学んでいく


つながりを名づけられた幼子が
祝福された草原を歩いていく
星の人がまだ世界を描いていたころ
最も強くつづられたかたち
愛という言葉をこえて
それでも僕たちにその言葉を
口ずさませるかたち


バトン、
繋げられる世界 連綿
愛でられる花を
産声をもたらす豊饒の炎を
預けられて
少年は本当の姿へと羽化する
太陽に照らされることの喜びを
太陽に火をともすことの誇りを
噛みしめながら


さよならを歌う鳥の形をして
かすかな引力を帯びたまま
あの日旅立った意志が
同じ色の空から
最も優しい密度になって
還ってくるとき


綿毛の海で泳ぐ
後ろ姿を見つける


あなたが描いた世界に
この身の一切を捧げることを誓います
世界を護る力を 育む術を
僕の両手に与えてください



自由詩 エリタージュ Copyright 橘あまね 2011-11-05 08:26:43
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