漂流
花形新次

青、青は都会の海の色ではなくて
映り込んだ半島の空の色だ
水面に浮かぶ彼の名を誰も知らなかった
休日のサラリーマンのぼんやりとした気分と同じように
朝の風景は
彼の思想の輪郭までも
少しずつ溶かし始めた

どれくらい此処に漂っていたのだろう
何隻もの軍艦が鼻先をかすめるように過ぎて行った
瑠璃色に光る濡れた髪の少女も

ウインドサーフィンの少女が彼に訊ねた
 あなたにブライアン・ウィルソンの歌は聴こえたかしら?
 神のみぞ知る?
 いいえ、素敵じゃないか
 それってきみのこと、それとも・・・・
 もちろん、あなたのことよ

彼は、うつ伏せと仰向けを繰り返しながら
 そんなこと言われたのは初めてだな・・・・
と、ちょっぴりはにかんだ表情で
手を振って走り去る少女に向かって
瞑ったままでウインクをした

 もっと早くに出会いたかったね、ベイビー

深く、深く潜り込んで
陽の当らないぐらい深いところまで
潜り込んでしまうべきなのだろうか?
グロテスクな、それでいて滑稽なこの自分に
ピッタリお似合いの場所が
そこにはあるのかも知れない
ないのかも知れない

 ああ、まただ・・・・、同じことだ
 もうお終いにしよう
 お終いにするためにこうしているんじゃないのか

彼は決めた
考えることを止め、やさしい声を聴くことを止め
彼はいつまでも漂い続けることに決めた

半年後
ワイキキビーチに打ちあげられた彼の名を
相変わらず誰も知らなかった


自由詩 漂流 Copyright 花形新次 2011-11-03 12:19:08
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