きれいなうた
faik

きれいなうたを歌おうと想い
きれいなものを見上げていました
しかし私は愚か者
気付けばそれらすべてのものを
もろとも見下しておりました

そんな自分を軽蔑し
慈善などとも想いはしました
しかし私は愚か者
何をやっても左の臓が
偽善、偽善と囃すのです
こどものように囃すのです

されども、貴方
そんな底意地汚い私にも
きれいなこころはあったのです
確かにそれはあったのです
もはや自覚こそ遥か遠く、霞の如く朧げでありますが

赤いものをあかいと云い
綺麗なものをきれいと云い
嬉しいことにうれしいと云い
愛しいひとに唯、好きだと云える
すなおなおもいが在ったのです
確かに、確かにあったのです


浅くも永い年月のなか
喪失を知り、残酷を知り
怯えるという感覚を知り
そこから生じた数多の感情が
息吹き、根を張り、巣を食い
ばばばと咲き乱れた頃には、もう
すっかり隠居した後だったのです


けれども、貴方。
親愛(いと)しい貴方。
それは今でも、私のどこかに
確かに居るはずのものですから

探してくれ、とは言いません
助けてくれ、とも言いません
以前ほど強がらなくなった私は
恐らくそれすら望んでいません

ただ、そういう素直できれいなものが
まぬけで不埒で黴っぽく
拙くてジメジメでネチネチしたこんな私にも
確かにあるのだという自慢話を
とりとめもなく語り始めた今日の右脳に

まるで気のない相槌と
てんでんばらばらな閑話休題で
安らかな沈黙を与えて下さい


いつものような、簡単な顔で。


自由詩 きれいなうた Copyright faik 2011-11-02 19:53:55
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