フェニキアの舟
天野茂典



津軽はいま雪のなか
津軽はいま雪のなか
じゃわめぐ
弘前
ここは弘前こころでかき鳴らす
津軽三味線 吉増さんも 泉谷さんも
八木さんも 中上さんも一杯機嫌で
雑談にわいている ぼくは吉増さんに
「草書の川」についてやや批判的なことを
述べたと思うが 酒ははらわたに染みた
このひとことはかなり吉増さんのプライドを
傷つけたらしく じじつそののちいっさい
詩集は贈られてこなくなった
酒にほろほろ
ここは弘前
酒場のざわめきにすべては消えてしまった
そののち
吉増さんとの交流から離れてひさしく
ぼくが主催で朗読会を再会すると
吉増さんは
酒を持ってお祝いにかけつけてくれた
ぼくが「螺旋歌」にひどく感動し
バイクで家までのりつけて熱い思いを
伝えたいと思うことがあって
訪問したことがあったのだが
留守だったので郵便受けに置き手紙
投げ入れてきたことがあった
酒が回って林檎のようにおしゃべり野郎
ら・り・る・れ・ろ・ら・り・り
みんな酔っ払いになっちゃって
外は雪
ここは弘前
津軽三味線
津軽はいま雪のなか
津軽はいま雪のなか
ひびきわたる黄金の鉢
弦を弾いて
雪のなかに
消えて行く
吉増剛造
雪のなかのフェニキアの舟
津軽の雪に浮かべてくれ


2004・11・22


自由詩 フェニキアの舟 Copyright 天野茂典 2004-11-22 17:50:20
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