顔 初級編
……とある蛙

午後の大きな顔が公道の真ん中を通ってずんずんこちらに迫ってくる。何の躊躇も無いその目の色は鳶色だ。逃げ出すことも無く同じ方向に歩きだす。その顔は側面から夕日を受け端正な顔が陰を作って歪み出した。夕日は道の南面の減りから崖の先のはるか海の水平線に沈もうとしている。そちら側に町並みは無い。午後の大きな顔は次第に夕暮れにぼやけて しばらく厳しい顔をしたかと思うと黄昏れて夕闇に拡散した。頭上に満月が輝いて斜めに傾斜した夜の道をずんずん赤ら顔がこちらに迫ってくる。いくらか砕けてえへろえへろしたその顔は後頭部に別の鬼の顔をもっている。鬼の顔はこちらからは見えないが、確かにあの赤ら顔の裏に舌嘗めずりをしている鬼の顔があるのをこちらは分かっている。夜の道はメイビウスの輪のようになっていて普通にいずまいを正していれば鬼はよってこない。ただ愛想のよい赤ら顔に自分から近づく子とが無いか義理の話だ。

そのうち彼者誰時がくる。赤ら顔は青ざめて来て来た道を引き返す。早くしないとあいつがくるからだ。正義ずらしたあいつ。朝の顔がやってくる。威勢は良いが陽炎のようなやつであっと言う間に昼飯の胃袋に変わる。自分自身が大好きな正論をはく前に。


自由詩 顔 初級編 Copyright ……とある蛙 2011-10-17 16:19:54
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