旅路のひと
恋月 ぴの
旅ってなんだろう
帰るところあっての旅なんだろうけど
住んだこと無いはずなのに
慣れ親しんだ気がしてならない場所へと帰ってゆく
そんな旅路もあるような気がする
※
無人駅のホームでひとり
秋の日差しは山間を掠めるように影を伸ばし
手持ち無沙汰のベンチでアキアカネは羽を休める
手にはカバンひとつ
思い出とか詰まっていることもなくて
仮に誰かの詩集の一冊でも入っているのなら
言い訳のひとつでも語れるのかも知れないけど
次の列車はこの駅に止まるのかな
耳を澄ませば澄ますほどに辺りは静けさに支配され
駅のはずれで交差する鉄路は鈍い光を放ちながらも夕闇と沈む
※
果たしてこの場所だったのだろうか
ここでは無かった気もするけど
いつかの日に訪れたはずの記憶を頼りに探し出す
わたしがわたしであった証
生きてきた痕跡
たとえ泥に塗れていたとしても
わたしがわたしであったとするなら、それを否定することは叶わずに
幸せとは時を刻んだ日々のひとつかみ
ほろ苦く噛み締める刹那にも訪れることを知る