ブブンヤキソバ
たもつ




美味しい美味しいブブンヤキソバを君は作っている
キッチンは甲状腺のような白い匂いに包まれ
外の方はきっともっと広い世界が連綿と続き
幾多の人々が美味しい美味しいゼンブヤキソバを
美味しい美味しいと食べているのだろう

僕らはいつまでも部分であるということ
いつまでも全部にはなれないということ 
それは硬く 甲殻類の甲羅のように硬く あるいは
裏の動物園に潜む優しい目をした凶暴なゴリラの頭蓋骨のように硬く
もしくは病院の待合室でいつまでも誰かを待ち続ける男の
足にできたウオノメのように硬く もっと硬く
でも もじゃもじゃ

白血球の中を吹き抜けていく風の強度なら負けないぞ
君が腕まくりをすると わいいん わいいん
刃のこぼれた鋸の音が強く強く鳴り響く と
言っていたかつての知り合いは他の知り合いを探しにいったまま
帰ってこない 冷蔵庫にはブブンヤキソバの一部分 腐りかけて
まだ腐っている最中

麺の中で繰り返される小規模な分裂と結合
僕らの言葉の中心は恐ろしいまでの真空
良い形の赤血球が通過していく という
僕らの通過儀礼は世界によって断罪される!
の瞬間雨量は雨量計の針を振り切ってどこまでも逃走

滑走路の直中 歌を忘れて飛び立てない手漕ぎボート
そのオールももじゃもじゃのブブンヤキソバ
なんてことだろう君 僕は君のことが好きでたまらないよ
と囁いて行く一陣のもじゃもじゃ
僕らはいつまでも部分でいつまでも全部にはなれない
出来上がったブブンヤキソバを美味しい美味しいと食べる
残りは全部 言葉を失ったまま風の音ばかりが吹く明日の弁当箱へ






自由詩 ブブンヤキソバ Copyright たもつ 2004-11-20 16:04:59
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