もしも僕が白鳥だったなら
カワグチタケシ
*
僕たちは午後から出発した
地面に句読点をつけるよりも速く
きれいな風が僕たちを追い抜いていく
足もとを通り抜ける
小さな音が風を追いかけていく
白いページにやがて日が傾き
それぞれに足音をたてて進む坂道
それは不確かな傾きで
ときに平坦なでこぼこ道につづく
声がかすれて風に飛ばされていく
ときどきなにかを言いかけては言いよどみ
言葉が息を詰める改札口
そして恥ずかしげな抱擁のあと
僕たちは手を振ってわかれた
**
もしも僕が白鳥だったなら
もしも僕が白鳥だったとしても
変わらずこの道を歩いていただろう
午後の乾いた日に照らされて
僕は白鳥として切符を買う君を待ち
やはり君にかける言葉がないだろう
もしも僕が白鳥だったなら
腹と足と水かきを澱んだ水に浸して
もしも僕が白鳥だったとしても
空を飛んで君に会いにはいけないけれど
長い首のうえの小さな脳はいつも
君の声を
君のかすれた語尾を思い出すだろう
もしも僕が白鳥だったなら
Contains sample from Pink Floyd