公衆便所に居て
田村大介
公衆便所に居て男達は
ずらりと肩を並べながら
白磁の陶器に降り注がれる小便を眺め
例えば自分の記憶や感情なんかが
よくも一緒に流れ出て
しまわないものだと思う
溜め息は臭気や湿気と共に
換気扇に巻き取られて外へ霧散したが
男達はむしろ憂いのようなものを
また新たに抱えて便所を出る
燃料の
生命の
幸福の
残滓
男は今ひりだした大便を眺めて
その残酷な無言に心を落とした
一瞬の沈黙の後に渦に呑み込まれ
そして数万の糞尿の濁流と合流していく
男は一度力強くまばたきをし
人ごみの中へ消えた