公衆便所に居て
田村大介


 公衆便所に居て男達は
 ずらりと肩を並べながら
 白磁の陶器に降り注がれる小便を眺め
 例えば自分の記憶や感情なんかが
 よくも一緒に流れ出て
 しまわないものだと思う
 溜め息は臭気や湿気と共に
 換気扇に巻き取られて外へ霧散したが
 男達はむしろ憂いのようなものを
 また新たに抱えて便所を出る
 
 燃料の
 生命の
 幸福の
 残滓
 
 男は今ひりだした大便を眺めて
 その残酷な無言に心を落とした

 一瞬の沈黙の後に渦に呑み込まれ
 そして数万の糞尿の濁流と合流していく
 男は一度力強くまばたきをし
 人ごみの中へ消えた


自由詩 公衆便所に居て Copyright 田村大介 2011-09-14 14:30:31
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