Baby I Love You
はだいろ
仕事帰りに、
本屋さんへ行って、
「たまごくらぶ」という雑誌を買う。
彼女が、妊娠したのだ。
ためしに、
『膣外射精 妊娠』で検索すると、
膣外射精は、避妊ではありません、と書いてある。
それで、
生理が来ないとか、
おっぱいが張っているとか、
彼女が軽井沢で言っていても、
ぼくは、はあ、そうなの、なんて、
ちっとも、頭をよぎらなかった。
彼女のへやで、テレビを見ているとき、
戸田愛菜ちゃん、可愛いね、
て話をして、
ロリコンなの?と聞かれたから、
なんで、それがロリコンなの、
子供が好きだからね、て言ったら、
急に、
彼女が、30分くらい、黙りこんだことがあった。
おなかの超音波写真を見せられて、
流産しかけていると、
火曜日に告白した。
なにも、聞かなかったから,
なにも、言わなかったのかもしれないけれど、
彼女は、
なんとかいう、むずかしい病気(血がつまりやすいらしい)を持っているせいで、
仮に妊娠しても、
流産の可能性が高いということを、
お医者さんから、むかしに、
告げられていたらしい。
どうも、そうらしい。
愛の定義なんて、わからないけれど、
ぼくは、
彼女に、恋愛感情がいまいちないような気がしていたのだけれど、
いまは、彼女のことが、
美しく輝いて見える。
恋愛感情なんて、メッキの輝きに過ぎないのかもしれない。
心の底から、
大切にするんだっていう、
気持ちでいっぱいになる。
そして、それが、幸せなのだと、いま、信じられる。
水曜日、
会社を休んで、
大学病院へいっしょに行く地下鉄の中で、
彼女が、気を失ってしまい、
救急車を呼んで、
手をにぎって、
病院へ行き、
予約もしてなかったから、
結果的には、優先的に先生に見てもらえて、良かった。
お腹の赤ちゃんは、
まだまだできたてで、よくわからないのだけれど、
5週目、いまのところ、順調だということだった。
ただ、
やはり、
投薬の切り替えもあり、
すぐに、入院することになった。
個室しか空いていなかったから、
一泊2万6千円もするのだけれど、
ぼくは、心配するなと言って、すぐに、入院させた。
ためしに、
『妊娠 5週目』で検索すると、
やっぱり、つわりの始まりで、
苦しいときだと、書いてある。
ぼくは、
なんだか、
そわそわしてしまう。
でも、
期待しすぎることも、よさなくてはいけないとも思う。
『たまごくらぶ』を買ったけれど、
明日、
彼女の病室には、持ってはいかない。
なぜかって、
もし・・・
もしも、流産してしまったら、
ぼくが、ものすごく、がっかりしてしまうということに、
彼女が、こころを痛めることを、
避けたいと思うからだ。
でも、ぼくはいま、とても、楽観している。
大丈夫に決まってる。
彼女にも、そう言った。
100%いいほうに、考えよう。
彼女のお母さんは、
妊娠したと聞いて、
「それって、私生児になるの?」と言ったそうだ。
ふたりで、笑ってしまった。