なんでもなく、いま
ズー

海月に刺された女の子が、ひらひらと漂着する砂浜で、ささやき合っていた熟年カップルは、あらわれてはきえていく波の前で石像になっている。
白い波と青い波を残したまま、海は水平線で折り返し、遥か頭上をずっと東の方へのびている。
見上げると、どこか君の浴衣のようでもあり、ちっともこころは休まらない。やがて、夕日に染まっていく。
潮風で固くなった君の髪から、木の実がひとつ落ち、かろかろと転がっていく坂道の先で、太陽は沈む。
コインランドリーで、二人分の洗濯が終わるまでのあいだに、ぼくは、森になれ森になれと、実を落とす森にわけ入る。
実はシチューにいれて煮込むと美味しくなる。
君が話してくれた夕食の前を思いだし、実を拾う。坂道の下。
森に足を踏み入れ告げられたことがあると、君を探している、ぼくの影も、砂浜でのことも、ゆっくりと消えていくところ。


自由詩 なんでもなく、いま Copyright ズー 2011-09-02 19:24:24
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