雨乞い
伊月りさ
濡れる針葉樹林
ひいて、ひいて、
灰色の空にサラ砂を流して
よせて、よせて、
濡れた針葉樹林
すべる、すべる、
シュラリモン・キン
シュラリモン・キン
キン・リン
かさなる、かさなる、
大きな風のビンタ
ババババババババババ
とまらない
わたしたちがうたう
ように泣いている(のか)
ずっと針葉樹林
ずっとかたまり
よせて、よせて、
わたしを聞いて
しゅらりもん!
きん!
大きな風に引っこ抜かれたい
くろーっぷ!
くろーっぷ!
わたしを撃つ
ためには
湿った年輪が足りない(のか)
ひいて、ひいて、
灰色の空に根が降りる
ひいて、ひいて、
岩の扉が開き
焦げた針葉樹になり遂げる
バババババババb
わたしのなかにサラ砂が積もる
こぼれ落ちず
まだ濡れている針葉樹林のうたは
山を越えられず
わたしを弔えずに泣いているのか
シリン
シュラリモン・キン
太い指
一弦だけなど・無理
と、否定するのはたやすいよ
針葉樹林は濡れない
わたしたちは泣かない
( 穿たれたいのはこの毛だったのかな、乳首の横の一本の、
キン・リン
大きな風に引っこ抜かれるために
雨雲をよび
白い電極が噛み合うために
噛みつかれるために
よせて、よせて、と叫んだ
のはわたしたち
の だれ
の 音 なのかな、
もっとも高く
響きとられたいらしいが
ひいて、ひいて、
灰色の空は
白と黒によって成っている
その隙間を叩く
狡猾なうたに
よせて、よせて、
雷を落とす
なんて きみたちの思惑通りだ
ゴキブリだって一滴の水が必要なんだ
という時差式信号機のような
わたし
の 群れ
であることを言い訳に
シュラリモン・キン
シュラリモン・キン
シュラリモン・キン
と 雨乞いは続く
それは 濡れるためか
それは 砂にまみれるためか
それは くろーっぷ! のためか
それは わたしだけ真っ二つになるためか
それは きみたちを救うためか
それは 乳房のためか
それは 赤ん坊のためか
それは 赤ん坊をつくるまねをするためか
それは
シリンと
控えめを装って鳴るだけで
膝を抱えたきみが具現化する
よせる、よせる、
弔いのつもりか
ひびく、ひびく、
さびしいのは
わたし
曇り空
圧し潰して
染み出でて
濡れた針葉樹が
すこし、ぬるい
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創書日和。