そしてあらゆるものが過ぎ去ったあとを
ホロウ・シカエルボク




オーブンレンジが
動くときに聞こえる音に似たうねり
楕円的な渦巻きの軌道
高いところから落ちて破損した
もう聴くことのないCDとそのケースみたいな一日


テレビの中では
世界中の筋肉質が集まって
飛んだり走ったりしてるらしい
強靱なメンタルと肉体さえあれば出来ることに
おれは
特別興味を持てない
他人の栄光を
一喜一憂して眺められるほど
人生に退屈してはいないのだ


詩を
とんでもなく堅苦しい
出し物のように語るやつがいる
崇高な精神で
ストイックに
追い求めなければならないものだと
そんで、結局
首の回らない名作ばかりを
生み出す結果になってしまう
こんなもん、ただの
気の利いた
遊びに過ぎないぜ
文学なんて代物で
誰かのケツが拭けるのか?


ちょっとした生まれ方とか
ちょっとした死に方のプログラムを
自分の肌で感じてみたくて
おれは半分を欠落して生きている
生まれてこのかた、ずっと
右側にいろいろな歪みが溜まる仕組みの身体


今日最後の路面電車が
天井をジャイブしながら通過して
途端に歩道を歩くやつらの
話し声が聞こえるようになる
それは深夜になるほど大きくなる
かれらの言葉に意味あるなにかを見つけたことはこれまでにないし
これからも、たぶんないだろう


冷房をつけると寒さがこたえるが
温度を上げるとカビの臭いがひどいんだ
だからこの部屋には寒いか暑いかしかない
まるでまだ世界が小さな社会だった時代の出来事みたいに


がぶ飲みした水が全部小便になって出て行くまでは
膀胱の性能テストをするかのように寝床と便所を行ったり来たりする
小便が近いということは
なにか重要な役割を担っているはずの砂時計が
逆さにしたのに砂を落とさないというような無力感に似ている


どこのどんな場所にも雨なんか降っていないのに
俺だけが雨の音を聞いているということがよくある
なにかタチの悪いクセかもしれない
いつの間にか塗れて冷えているような
そんな気分で午後の太陽を窓越しに見ていることがよくある


アイリーンがみんなを困らせてるってニュースが言ってる
アイリーンだって
いままでさんざん我慢してきたのかもしれないじゃないか
じゃじゃ馬には手綱なんかつけられない
どうか自分を蹴っ飛ばさないでくれよと
神にでも
祈っていればいいさ






自由詩 そしてあらゆるものが過ぎ去ったあとを Copyright ホロウ・シカエルボク 2011-08-28 23:20:06
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