無と奇跡
シャドウ ウィックフェロー


どんな悲惨も
無よりはましかなと思って
野良猫たちの生を
肯定してきたのだけれど

汚いったって
臭いったって
生きてるってのは
そんなもんでしょうって

でもソマリアの餓えた子供を見ていると
自信もちょっとぐらついちまう

よく拗ねた若者が言うよね
生まれてこない方が良かったって
あれはなにを基準にそう言ってるんだろう

損得とか
幸不幸とか
快不快とか
何か違う感じがする
生まれないってことは0でさえなくて
それは無なんだから
無とは何も比べられない

命あってのものだね
っていうのとも
ちょっと違うし
生きてりゃいいさ
っていうのとも
ちょっと違うけれど

生まれて有ることを
ひとつの奇跡として
貴びたい思いが確かにあった
ような気がする
のだけれど

ソマリアの餓えた子供を見ていると
だんだんと不安になってくる

あんな状況に置かれて
動物よりも昆虫よりも
生きてる感じを失って
何をよすがに寄る辺に
生きろというのか

生きながらの無になったとき
初めて生まれてこなかった無と
比べられるとでもいうように

生まれてこない方が良かったって
初めて言うことができる
条件がそろったとでもいうように

ソマリアの餓えた子供を見ていると
そう言っていいような気になっちまう

そのとき見たんだ
大写しになった画面に
その女の子だか男の子だかも分からない
鼻水をたらした子供の首に
かけられたビーズの
きらきらした
おもちゃの様な
首飾りを




自由詩 無と奇跡 Copyright シャドウ ウィックフェロー 2011-08-28 15:28:15
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