女へのコラージュ
草野春心



「葡萄」

  葡萄の皮を
  小さな部屋の
  ドアをひらくように……
  ……
  そのなかには
  何か
  静かな音楽を奏でているひとが
  椅子に座って
  いて……
  ……
  ぼくは
  はげしく嫉妬し、それから
  敬慕、
  望郷、
  軽蔑、
  憤怒……
  ……
  ぼくは
  あらゆる感情に痙攣するのだ



「わたし」

  ネックレスを買ったよ
  ブレスレットを買ったよ
  まっしろなドレスを買ったよ
  ねえ
  わたしを音読してよ
  スミレ
  ヒマワリ
  オジギソウ
  メルクマール
  ドグマ
  イデオロギー
  あなたのために
  言葉をたくさん覚えたよ
  わたしを音読してよ
  鳴らしてよ
  わたしタンバリン
  わたしヴァイオリン
  わたしロックンロール
  わたしブルース
  音読してよわたしを
  ねえ
  香水をかえたよ
  シャンプーとリンスもかえた
  メイクもかえたよ
  すっかり秋になったから
  思いきって模様がえもした
  きづいてよ
  さわってよ
  あいにきてよ
  わたしギター
  わたしカスタネット
  わたしサンバ
  わたしカルメン
  ねえ
  あいにきてよ
  わたしを音読してよ



「肌」

  (逝く)
  (手直しを待つ文字の列)、つめたく
  かたむいた夜に、シーツへと(野菜室で、
  調理を待つ一本の葱)、滑ってゆく八本の指、
  (改行を待つ、書かれたばかりの一篇の詩)、
  未だ、その白さに滞り、ひっしと、(公園で、
  母親を待つ子どもたちの哄笑)、染みついて
  いるものを、未だ消えぬうちに、(死を待つ、
  砂浜の、無数の瞳)、(逝く)、未だ消えぬうち
  に、(訂正を待ついくつかの誤字)、こそげとる
  ように、(手直しを待つ文字の列)、絡めとる
  ように、砂浜の、死を待つ、砂浜の、(女た
  ちの)、無数の、(女たちの)、魚たちの、
  (女たちの)、私たちの、(あなたたちの)、
  回収されて
  逝く
  瞳には
  光



「光の糸」

  夏

  みちびかれるように
  目覚め
  朝の戸を
  開き

  川べりを
  一人、歩き
  木々や
  痩せた鴨と出会い
  みちびかれるように
  光だけを
  追い
  光だけを
  思い
  どこまでも
  どこまでも
  果てへ
  源まで
  一人、歩き……

  蝶と
  蝶が
  舞いながら交わるところで
  手首に
  しろい糸が
  むすばれていることに気づき

  みちびかれるように
  遡れば
  蝶を
  木々を
  鴨を
  川を
  光の群れを
  世界を
  この
  夏の朝のすべてを
  みちびかれるように
  遡れば

  かつてきみが
  ねむっていたところ






自由詩 女へのコラージュ Copyright 草野春心 2011-08-27 19:21:33
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