3月11日
麦穂の海

ひとの一生ははかなくて
ふいにやぶけてしまう
ぴんとはった
うすがみのように

3月11日
がんを患うあなたの目の前で

おそらく数千の一生が
一瞬にしてやぶけてしまった


あなたのいのちのほのおを
絶やすもんかと
手でおおい、体でおおいして
あなたの横たわるベッドの周りを
大勢の人が手をつなぎ
運命の強い風から守りたいと願う
その前で

ほのおをじっとみつめる間もなく
吹き消されてしまったいのち
たちを
私たちはぼう然と見ていた


あの数分間ゆれにゆれる地面にふんばりながら
落ちてきそうな食卓のあかりを押さえながら
思い続けたのは

おさまる おさまる おさま
今に止まる 今に止まる 今に止まる……


アナタニイキテイテホシイノダ

どれだけの人がそう願っただろう
なぜ私たちは生きているんだろう

なぜ届けられない願いがあったのか
なぜ濁流にのまれなければならなかった

なぜ瓦礫のしたに
なぜ寒さと苦しみのなかに

死んでいかねばならなかったのか



そのいのちの分かれ目を
説明できる者はどこにもいない


なぜあなたはそんな奇病を患ったのか
なぜその上、がんにさえかかってしまったのか

なぜあなたはそれほどの苦しみを受けなければいけないのか

あなたの脳裏に浮かんでいるはずの
いくつもの問いは


あの時幾千も浮かんだだろう
北の空の「なぜ」と
合流するように見える


けれど

あなたと私はいきている


そのぎょう倖を
今は
ただあなたの頬のあたたかさと共に
私は噛みしめたいのだ



あなたはあの瞬間に
何を思ったのだろう


le samedi 12 mars 2011


自由詩 3月11日 Copyright 麦穂の海 2011-08-26 21:30:20
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