降り来る言葉  LIII
木立 悟





水か影かわからぬものが
器の底を囲んでいる
円の一部を
喰んでいる


またいつか会おう
会うより速い別れを
くりかえし
くりかえし


見えると見えないのはざまの距離は
常ならず
常に 常に
ただ羽として流れている


水は光に 光は水に
不可分のままそのままに
山の頂でも山すそでも在る
まぶたの上の 虫でさえ在る


老いて熱く
若く寒い
ひらかれた窓
ひかり あびて ささる


重ねるたびに
時を越える音があり
色があり かたちがある
歩みは歪みを 歩みつづける


常なるもの無く常は在り
夜ごとの水に改まるものに哭く
星の地図の街
見ることなく歩む


願いや祈りの外にある笑み
肉と筆により描かれて
目や己を信じるものから離れ
命ある曇とともに星を巡る


砕き捨てても現われる筆
咥えては書く泡の径
ふさふさと夜の目を閉じ
夜の目を閉じ


午後の柱
砂の刃
光は遠く
揺らぎを鞣す


光が光をつなぎ
夜は地を踏み空を踏む
たどたどしく街は壊れ
音は散らばる


抱ききれぬものを抱いて倒れ
二十年が過ぎた
人を忘れたが
忘れぬものもわずかだが在る


覆いを破き
飛べぬ羽と成し
虎は虎を喰い
荒れ野は打ち寄せる


水のなかの脚を
飲まず喰わず見つめて数日
脚は空を突き
空をまわす


崖を 岩の階段沿いに下ると
村は滅びていた
無数の旗だけが
河へ至る道にたなびいていた


真昼は高く 時を放り
拾うものなく空はつづく
拾うものなく
空はつづく































自由詩 降り来る言葉  LIII Copyright 木立 悟 2011-08-25 09:12:34
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