その嘘を信じさせて欲しいと思う
村上 和
溶けてしまいそう
暑さのせいではない
時々空を見上げる
曇っていると泣きたくなる
今日はよく喋った
昨日は一言も声を発しなかった
電話をかける
最近どう?
暑いね
溶けてしまいそう
日常が流れている
・
その嘘を信じさせて欲しいと思う
小指を結ぶ
久しぶりだね
指きりげんまんの唄なんて
子供みたいに
空想の針を千本用意して飲み込むよ
誰だってそうだけれど
私はいつか死んでしまうでしょう?
そうしたらその針で
宇宙を繋いで欲しいんだ
無限に糸をのばしてさ
いいでしょう?
・
眼を閉じる
人さし指を一本立てる
この指とまれ
誰もいないのに
誰かが握ってくれる
幽霊みたいだ
少し怖い
けれど優しい
声はない
音もない
気づけば
蝉も鳴き止んでいる
一週間という生涯は
楽しかっただろうか
・
月を見上げる
下弦
今夜は泣かない
影に消えて行こうとしている兎が
私に手を振ってくれている
優しいね
ありがとう
さようなら
あ
いや
お餅をついてるんだった
恥ずかしい勘違い
私は眼が悪い
滲んでるんじゃない