その嘘を信じさせて欲しいと思う
村上 和

溶けてしまいそう
暑さのせいではない

時々空を見上げる
曇っていると泣きたくなる

今日はよく喋った
昨日は一言も声を発しなかった

電話をかける
最近どう?

暑いね
溶けてしまいそう

日常が流れている



その嘘を信じさせて欲しいと思う
小指を結ぶ

久しぶりだね
指きりげんまんの唄なんて

子供みたいに
空想の針を千本用意して飲み込むよ

誰だってそうだけれど
私はいつか死んでしまうでしょう?

そうしたらその針で
宇宙を繋いで欲しいんだ

無限に糸をのばしてさ

いいでしょう?



眼を閉じる
人さし指を一本立てる

この指とまれ

誰もいないのに
誰かが握ってくれる

幽霊みたいだ

少し怖い
けれど優しい

声はない
音もない

気づけば
蝉も鳴き止んでいる

一週間という生涯は
楽しかっただろうか



月を見上げる

下弦

今夜は泣かない

影に消えて行こうとしている兎が
私に手を振ってくれている

優しいね
ありがとう

さようなら



いや
お餅をついてるんだった
恥ずかしい勘違い

私は眼が悪い

滲んでるんじゃない


自由詩 その嘘を信じさせて欲しいと思う Copyright 村上 和 2011-08-22 19:17:36
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