六時の
時報を聞いたからあと300秒で天井が落ちてくる。部屋番号の素数には意味がない。棚に飾られているフィギュアは四肢を切断して並び変えておいたのだが、部屋の上下側面はコンクリートで覆われている。
「台所にある古い革靴を食べておいてください。ドアノブには画鋲を張りつけておきました。」
それらはすべてダミー。紫のコードを切りなさい。

駅前のロータリー沿いにある百貨店のビルから人が飛び降りている。列をなして飛び続けてる。そして祈るような姿勢で着地し、そのまま高く積もっていってる。先ほどは子連れの女が飛び、祈り、器用に積み重なった。そしてたったいま、托鉢姿の男が飛んだ。ぐちゃっと、祈った。３０センチ定規を持った小学生が、すっげぇ、を連呼している。きれいだね、あぁきれいだ、とカップルが話す。誰も紅茶を飲んでいない。それはまるで数学の公式のような決まりごとのように煙草の煙を吐くビジネスマン。見渡すと辺りの高いビルの周辺には無数に祈りの塔が出来上がっている。太陽ははっきりと震えて見えている。何故だ、何故僕は何もせずここにいるのに、皆は祈っているんだ―
南蛮の音楽に合わせて、半裸の男が、いままさに、

「今まさに走り出さんそのときに、靴紐が解けている現象！そうだこれに名前をつけるのだ！」
その意気です、アンリエッタ。そのまま来た道を逆走して楽園から離れなさい。さすれば、慣性の法則にしたがって、拗ねてどうせ僕はゴミなんでしょと自らごみ箱に飛び込んでいく屑らが尻目に、大丈夫です、アンリエッタ。精神に異常をきたしたりはしてません。古本のいつかの夕日がレノンの忌です。シュヴァルツシルト球を過ぎたあとの崩壊のあらゆる過程は、遠方の観測者にとって天使な同級生が恍惚の表情を上げながら主人公を踏み殺す状景に酷似しています。扇風機は廃れ、風鈴は死に、透明なバックに水着を入れて走り去ってゆく少年達と遠くで聞こえる祭囃子、例えるならそれらはすべて夢でした。そして、終わりかけのものたちでした。
ねぇ、アンリエッタ、明日大地震が起きてうさぎさん以外の動物全部死ねばいいのに同じ大学で講義を受けるあの可愛い娘は文句良いながらも彼氏の部屋を片付けて、料理を作り、そしてセックスをするんだよ。だって、そうでなければ……振り返ってごらんなさい！気味のわるい奇妙な生物が今そこに座って、無意味なことをしている！

「ゴミ捨て場であなたの見つけた、そうそれが背骨であるならば、そう、人生は、限りなく骨格を模したものなどでは無かった！」
それがあの宇宙であれがこの太陽でこれがどの地球でどれがその僕なんだ、どうして、どうして僕のいない世界はこんなにもきれいで、こんなにもまぶしい。なぁアンリエッタ、君が英雄のように語るのは首から下を校庭に埋められた時のこと。君が戦士のように語るのは見つめるだけで終わりを告げた淡い初恋の時のこと。君が詩人のように語るのはパンに何枚ものハムを挟み込んだ時のこと。どうして、どうして僕のいない世界はこんなにもきれいで！こんなにも―

「津軽三味線、フラッシュバック現象、はっきりしない曖昧な画像・・・何の曲だったろう。」
イエスが光臨してきたそのさまを、ニヨニヨ笑いながら携帯電話で撮ってやがる。何が「キター」だよ、誰も来てねぇよぶっ殺すぞ。ところで町はといえばさ、羊と葡萄を組み合わせた文字であふれてて、にも関わらずすべからく意味がねーんだ。大抵はそっちのけで赤ガンバレ白ガンバレってよ、記号論だよなー、あーまさに記号論。「ウケルー」じゃねーよ、誰も攻めてこねーよ黙っとけ。俺の十代は聖像破壊運動に費やされてたんだ、真っ白い紙渡されて、誰がそこに神を描ける？本物以上の自分をやるか？お前ら？ちょいちょい時計見てんじゃねーよスッタコ。テストに出るからメモっとけ。それでだ、両側にビルのある暮らしは燕を模している、夜の街が似合うんだ。だけど見上げてもいつも青空だ、こいつはいささかやってらんねぇ。だから堕ちたいんだ。墜落したいんだ！マスコミは嘘ばかり。若者のせいにしときゃいいよ、何も解決しないから。舞い上がるように、眠りに落ちて夢を見るように、墜落するんだ。ここから、ここだ、ここからだ。それで、それでだ、俺は、俺たちは、落っこちるんだ。そうだお前もだ。ながら、それで、地面に、五体投地するんだ！五体投地だ！俺たちはあくまでも、最大限の尊厳に、限りない感謝を、ぶつけるんだ。ぶつけるためにここにいるんだ。そうだろう、そうでなくては、あぁ、なんたる波羅蜜多、あぁなんたる波羅蜜多！

そして馬、馬を走らせ、神様は音符のように枝を延べました。死にたくなるのを忘れるためにそれぞれに韻を踏みながら未完のバベルを高く積む。スウィッチひとつで瓦解するやわらかな人間の渦、それは幼年期の終わり。走りなさい、アンリエッタ。ただひたすらに。