風の吹く夜
wako

風の音が思い出を誘う夜
必ずあらわれる風景がある
真夏日の続く乾ききった夜
眼下に輝く星を
飽きもせずに眺めていた
神様のイキなはからいか
星は様々な色に輝いていた

星だったか?

私達には星に見えた
何億光年もむこうの
手の届くはずのない星に見えた
想像するしかない星に

険しい岩場のわずかなくぼみで
身を切る風にふるえていた
夢をみる状況でもなく
現実を直視したくもない夜だった

「あれは富士吉田市」

気温は次第に下がっていった
私達はお互いを気づかい
不器用に温めあった
低い気圧のせいか
薄い酸素のせいか
何も考えたくはなかった

光の行列が上をめざして続く

夜を徹して登るはずだった
こんな岩場で
野宿をするはずではなかった
奇妙な夜だった
非現実的な時間がすぎていった
少し眠ったかも知れない

東の空が白み始めると
星は薄れて
朝の光にかき消されていった
魔法は一気にとけて
眼下にはもやにかすむ街

迷うはずのない一本道を
私達は頂上にたどりつけなかった
埃の舞い上がる砂利道を
どうやって下りたか覚えていない

星の見えない街で
日々に流されていくうちに
いつしか私達ははぐれてしまった
風の音と
温めあった感触だけが
いつまでも記憶に残る


自由詩 風の吹く夜 Copyright wako 2011-08-10 17:07:31
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