月の山
蒲生万寿

池塘に架かる木道を歩き
空の青さを仰ぎ見る

近くの潅木に飛び来る鷽鳥
その喉の朱が眩しく映る

幾千年の時を経ても
なお変わらぬものがある

私はその真っ只中に居る

見るのではない
語るのではない
聞くのではない

感じるものを捉える

私が私ではなく
今が今ではなく
明日が明日ではなく

あるものを感じる

木道を過ぎ岩の上を歩くと
より強く感じるものがある

それは風か
それは花か
それは草か
ここにある大気か

岩が岩であることを足元から教えられ
土が土であることを歩みに覚らされる

「この世は何処までも果てしなく、楽しく、愉快じゃねぇか」

理由を考えたり
必要とすることもない

岩の上を歩き
ひたすらに歩き
天辺へと向かうばかり

天辺に鎮まる社に深々と頭を垂れ
「元気です、達者です」
と神妙に告げ、礼を述べる

後は塵埃にまみれた自分の住む所へと下るばかり

私の記憶にはしっかりと
知るべきものと
感じるものが残っている

私の中に宿るものは
あらゆるものとつながり
小さなことも大きなことも
同等に並び
そこに居直る

そこにあるものが
一つ欠けても作れないと
一つの中にも全てが宿ると
知るものばかりを集め
掛け替えの無いものを形作る

今日も山の頂に風が吹く
私もその風に吹かれる
余りにも心地好い
その風に


自由詩 月の山 Copyright 蒲生万寿 2011-08-08 12:42:48
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