原爆投下59周年
奇しくも長崎原爆記念日の午後
福井の美浜原発では2次冷却水循環パイプが破裂し
高温蒸気の直撃を受けた4人の作業員は顔が真白で
体内の水分を瞬時で奪われ炭化よろしく硬直していたそうな
夜には島根の原発でも低レベル核廃棄物処理施設にボヤが起き
素早い鎮火と犠牲者ゼロのめでたさよりも寧ろ
放射能の威力に怯えながらの「平和利用」の実態を
またもや非核三原則国民に垣間見せてくれた本日、
最早この惑星の日常が何に依拠しているのかも
いと匂やかに我々は実感できる
分厚いコンクリートと鉛の櫃に煌く御本尊
風にそよぐラヴェンダーの記憶にも似た
甲状腺を透過する時の、ひりひりした警告の甘味
かつて我々は野山を駆け回る猿人に過ぎなかったが
この器用な手は増殖を造出する為だけにあり
喪失に仰天し胸を叩く無能者の嘆きの為ではない
膨張は飽和に達し、反動としての激甚な収斂へ帰納する
米ソ冷戦時代に核兵器は保有各国でフル稼働の増産を重ね
既に20世紀で我々は飽和に到達してしまったのだ
こうしてとうにシナリオは書き上がっているのだが、
どうしても結末を暫時押しとどめたいと言うのなら
核廃絶など、誰も耳を貸さない絵空事を語るよりは
若干の反省を創出する方が効果は捗々しい
疲弊を含めて戦後というインターバルが常にそうであったように
人類はその材料としてのケーススタディ、
モルモットを必要としている
「過ちは繰り返しません」
などと本気でほざいているのが核兵器を持たぬ側の
例えばヒバクシャだけである無残を見ても明らかなように
スポイトには次なる滴下地点が必要なのだ
それが酸鼻を極めるだけの如何に無益な追試であろうとも
腐臭を放つ死体の嵩高と、戦慄の残響時間はほぼ比例するのであり
それだけが「過ち」と「過ち」の間隔を引き延ばし得るのだ
少なくとも数分程度は。
犠牲の山羊は
総意としての忘却あるいは無関心によって埋め立てられ
もはや極東モンゴロイドの古臭いケロイド写真は恐怖に値しない
チェルノブイリのお洩らし事故もツンドラの彼方に霞んだ今世紀
白人には白人の、
ムスリムにはムスリムのサンプルが必要な頃合い
であるにせよ、
いずれ大義の前に悔恨は萎れ、現実の前に理想は朽ちるもの
古より反省とは
どんな畜生よりも徹底的に殺し合う人類にあって
最も長続きしない意欲ではあるのだが
2004/08/09
原爆投下66周年
8月6日午前8時15分快晴
夥しい人間が一瞬の内に灰塵と化した
8月9日午前11時02分快晴
夥しい人間が再び熱線の内に消滅した
閃光と暗黒の記念日
人類が創造主の左手を
終末を獲得した日
だがそれは、
ほんの小さな試作品に過ぎない
今日も晴れて暑い一日になりそうだ
空を横切る銀色の魚影は誰にも見えない
式典に集う生残者達は老いさらばえ
65年間流し続けた涙の預け場所も無いまま
明日から再た順に枯れ
名簿の柩に消え行くだけ
市長は今年も演壇で市民の無念を代弁してみせ
首相は空々しい、お定まりの台詞を並べてみせる
ニュースキャスターも神妙な面持ちで毎度の寸評
かくて核廃絶という、
短冊のお題目を並べながら
内心の無力感に打ちひしがれていないのは
今年も可愛い声を響かせる小学生の合唱団だけ
何故なら誰一人、未来の人間達に誓えはしない
だとしたら誰一人、過去の鎮魂さえしていない
大人達は知っている
廃絶など絶対の不可能である事を
滅亡こそが不動の帰結である事を
獲得した能力を放棄するなど、人類にできはしない
脊椎を砕けば二足歩行は廃棄できようが
この不撓不屈は下肢でなく
灰白質なる魔法の笏杖からまかり出る
こうして不断の製造番号は
人智より強大な産物に結実し
最後の審判を超越した終末の捨て場所は
成層圏外にも、
無論我々の頭蓋中にもありはしないのだ
止む事なく前進を辿った頭脳は
破壊力に於ては頭打ちとなり
目下は宇宙探査と遺伝子操作の両極で気散じしているが
格納庫には何十万本ものミサイルが尖端を輝かせ
秒針はいつでも発射時刻に向かって進んでいる
結局、我々にできるのは数を数える事だけだ
今年
よりにもより
この日本が原発事故に見舞われるという皮肉
「史上初」「世界唯一」の被曝国が今や
己が肛門から放射能を垂れ流して自国民を被曝させ
汚染拡大で生活権を奪っている
まるで因果の時計がぐるりと回って止まったかのようだ
この予定調和
たったの66年間
焼土を覆う盛り土の嵩だけを追い求め
「非核3原則」を妥協・妥協で形骸化して来た
国民総意の惰眠嗜好の結果がこれだ
悪者は津波でも電力会社でもない
太郎サンノ買ツテモラツタ
新シイ玩具ハ、アトミツク・ドオル
取リ扱ヒニハ重ゝ御注意クダサイト
玩具屋ノ小父サンハ言ツテイタケレド
65年間、ニツポン国民は
それを押しとどめる為に1度でも
何かして来た事があるか
米の為なら一揆も打こわしもしたというのに
ガイガーカウンターを手に手に
てめえのガキの安全確保に奔走するママ達
口を揃えて「目に見えない物質」への恐怖を語り
笑わせてくれる
あんた方は充分、豊かでお幸せなのだ
今さら目の色変えたところでツケはもう
あんたらの孫の世代に至っている