来歴
yamadahifumi

俺は神を殺した。何度も何度もナイフを突き立てて。神はにやっと笑って答える。「こうしてお前に殺されるのも十三度目だ。一度目を覚えているか?」俺は答えた。「ああ、覚えて入るさ・・・一度目は貴様が俺を殺した晩だった・・・」「そうだ・・・覚えている・・・覚えている・・・」そうして神はうわごとのようなことを言ってゆっくりと死んでいった。
神が死んだのを見計らって人々がやってきた。「神を殺したのはお前か?」「・・・そうだが。殺せと頼んだのはお前達じゃないか?」「うるさい。お前を逮捕する。お前は死刑だ」「ああ、そう」俺は連行され牢屋に入れられた。
そこでの尋問は過酷を極めた。俺は何度も何度も肉体を失った。
「おら、お前はもう死ぬことができないほどこんなに死んでいるのだ。ここで白状しないとあと千回死ぬことになるぞ?」
「千回死んだ後はどうなるんだ?お前らはトイレに行ってケツを拭いて、鏡の中に映る自分の顔を穴の開くほど見つめてようやく自分が馬鹿ヅラしていたことを発見するのか?」
「うるさい、死ね」
そうやって俺はまた何度も何度も何度も殺されたのだった。俺が白状しないと事務上の手続きが余計にかかり、コストカットが目標に届かないらしい。やれやれ、人間の世も大変だな。
そうやって派手なオンパレードが続いたある晩、「出ろ」と言われて俺は夜の中を歩いて衆目の前に引き出された。衆目からはフラッシュの嵐。全く・・・人をなんだと思っていやがるんだ。
やがて俺の吊し上げの儀式が始まる。市長風の男が俺の前で宣言文のようなものを読み上げている。俺は試しに噛みついて殺してやろうか?という憎悪の表情をそいつに向けてみる。市長は退屈そうに笑顔で、「どうせお前は後五秒で死ぬんだ。最後くらい潔くしたらどうかね?」そう言って市長は軽く俺のみぞおちを殴ると(俺には重たかったが)、人々の喝采を受けながら階段を降りていった。
さて、そこでようやく俺の首が吊されることになった。やれやれ、やっとか。かったるいなあ。こんなに儀式が退屈だとは思わなかったよ。小学校の入学式から何一つ変わってやしない。
俺は愛すべきみなさんの「死ね!死ね!」のコールと共に地上高く二十メートルのところで見事に首を吊られることとなった。この退屈な劇はテレビ中継もされているし、何せネットでも流れるらしい。ネットなんてのはよく知らないが。ま、みんなで死ね!死ね!と自分の溜飲を下げられるようなシステムになっているのだろう。みなさんのために俺の首一つ吊れば満足なのだから安いものだろう?と前に刑務所で所長が言っていたっけな。どうでもいいが。
「俺」がどんどん上がっていく。俺は吊られてゆく。そして首を吊るのにカウントダウンが始まる。さあ、わくわくの時間だ。五秒、四秒、三秒、二秒、一秒・・・。
人々の大声援と喝采と共に俺の首は吊られた。俺は絶命した。全くやりきれないぜ・・・そう思っていると意外なことが起こった。
夜の闇が反転して、白昼夢のような状態になった。暗いのか明るいのか分からない。気が付くと人が消えている。俺はいつの間にか、宇宙の闇のような空間に浮かんでいた。そこには人々も何もいなかった。俺もいなかった。俺は目だけになっていた。そこに向こうから「神」がやってきた。どうしてそいつが「神」と分かったのか、これを書いている今も未だに分からない。
神は俺の頭(がある思われる部分)に触れ、「よくやったぜ、お前は」と呟いた。「全部お前が仕組んだことじゃないか」と俺は文句を言ってやった。「これでも俺は精一杯手はずを組んだんだぜ。まあ、いい。いずれにせよ、お前はよくやったよ」と神は俺の髪(と思われる部分)を撫でた。やめろよ、気持ち悪いな。
俺は神と抱き合って一つになった。それが同性愛だと気付いたのはその「後」でだった。どうせなら次は女をオーダーしたい。俺は女の方が好きだから。・・・いや、まあ、どっちでもいいな、めんどいから。
俺達はーーー一つになった俺達は様々な時代の様々な輪郭を駆けめぐった。それは楽しいようなそれでいて切ないような不思議な事だった。だが次第に俺も慣れた。俺は業務上の仕事をするようにそれをやり終えた。それが一段落すると今度は別次元の宇宙を巡るのだ。やれやれ。
そこには様々な自然があった。諸君らには分からないだろうがーーーそこには様々な無限の自然があり、十一次元の球体がごろごろ転がっている空間(もはや空間とも呼べないが)もあった。そこでは球体が一つ転がるに連れて人間の魂が千個破裂するよりもずっと大きな音を立てて、運命の板を「世界」が転がり落ちていくのだった。
そうした場所を走り終えて、俺には一つ実感が宿りつつあった。世界には「ここ」以上の場所はない。それで俺は神に頼んで奴と分かれてもらいーーー奴は最後に投げキッスをよこしてくれたーー気持ち悪いーーー航行を停止し、「今ここ」に降りたった。
そこで俺は生まれたのだ。赤ん坊として。

それが俺の来歴だ。


散文(批評随筆小説等) 来歴 Copyright yamadahifumi 2011-08-06 22:26:01
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