言葉を、ありがとう。
村上 和
着信音
淡いブルーの光
点灯
はい、もしもし。
駅前の大通りで
時差式の交差点で
地下街へと降りる階段で
すれ違う
たくさんの人たちは知らない
私がここにいること
「それ、可笑しいね。」
言葉を
ありがとう
逢いたいな
口づけみたいな
通じ合う術を持ってさ
傷つけることなく
会いたいね
大きな駅の構内で
商店街の路地裏で
公園沿いの散歩道で
すれ違う
たくさんの人たちには内緒のままで
私がここにいること
君がココにいること
「じゃあ、またね。」
言葉を
ありがとう
もう一度
奇跡的な偶然を重ねてさ
私はそっと手をさし延べるから
ココへ来て
二人
密やかな
そして
ささやかな
恋をしよう
うん、じゃあまたね。
宇宙の隅に
小さく灯った明かり
消灯
私も
すれ違うたくさんの人たちの中のひとり
だから
言葉を、ありがとう。