耳の人間
シホ.N


ピルキュルと
遠く鳥の飛び交うのを聞く

重ねて飼い犬らの間歇的な
へだてて呼び合う吠え声が

窓は笛の穴ともなって
聞かせるつよい南風

〈なにものでもない耳の人間〉

例えば牛蛙のバス、生き物らの
重厚なリズム

人びとの鳴き声などなど
さまざまな瑣末なハミング

暮れつつ、あるいは明けつつあって
移りゆく薄闇の動く物音

〈嗚呼ほんとうに光は要らない〉

同じ時刻に同じ柱が
きし、と軋む闇のなか

にわかに高まっては鎮まる
ざわめきの伝う脳の内

チガウ、チガウとさざめき
声なき声

〈ね転がって足りている耳〉

ナニモ要ラナイと声なく聞こえ
むしろそこにこそ露わな渇え

夢見みたいな意味もありげな色たちと
形象たちを耳に集めて

結晶する瞬間を
とらえる耳の人間



自由詩 耳の人間 Copyright シホ.N 2011-08-06 01:56:31
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