笑顔
洞野いちる

手鏡に映るわたしは、
媚びた笑顔を貼り付けて、
片想いの彼に振り向いてもらうための練習をしていた

プリクラに写るわたしは
美白と睫を盛る効果で
タレントみたいに可愛くなって、笑っていた

笑顔笑顔笑顔

わたしが求めているもの

だけど
鏡でいくら口角を上げても、
プリクラでいくら可愛くなっても
心は満たされない

もっと可愛くなりたい
もっと笑顔が似合うひとになりたい

そう思えば思うほど
練習した笑顔が醜くなってゆく

笑顔とは口角を上げれば作れるのではないか
笑顔とは目を細めれば作れるのではないか
笑顔とは表情筋を鍛えれば美しくなるのではないか
笑顔とは「ウ・イ・ス・キー」の合言葉で輝くのではないのか

心が満たされない原因はわからず
時間が過ぎてゆく

そして
今日もまた
わたしは手鏡に笑いかける
そこに写るのは醜い生き物と知っていながら



自由詩 笑顔 Copyright 洞野いちる 2011-08-03 12:41:18
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