八月の光
カワグチタケシ

やがて来る引き波の底
陽気な友達は俺の両足をつかみ
俺は自分で築いた砂の城の城壁につかまるが
靴は一体どこへ行ってしまったのだろうと
考える間もなく城壁は崩れる

八月の光の中
誰も気付いていない
最後の八月の光の中
青い水は流れる

青い水は満ちる

水の底で足の裏に痛みを感じる
死んだ貝を踏んでいる
髪を束ねた娘は多分俺を愛していない
眠ろうにも網戸にはりついた蝉が怖くて仕方ない

 今年の波は砕けた貝で出来て居て
  裸じやあとても泳げません
  だからと云つて
  溺れる訳にもゆきません
  せめて夕日の暮れる前に
  鐘をつかなきやあいけません

真昼の太陽に向ってさあみんなで燻製になろう
忘れないうちに電球を取り換えよう
二人だけの秘密忘れないうちに

耳の穴に水が入って君の声はよく聞こえないけれど
君は遊び疲れて眠ってしまったのだろうか
確か今日はまだ八月のはず
夕立が砂浜に虹をかける前に
過ぎ去った日々に想いを馳せよう
あの花束はどこへ行ったのだろうとか
あの少女達はどこへ行ったのだろうとか
そんな事を考えよう
明日に向かって走りだすのはやめて

八月の光の中
誰も気付いていない
最後の八月の光の中
ビーチは無軌道な若者で一杯



自由詩 八月の光 Copyright カワグチタケシ 2011-08-01 00:30:55
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