yumekyo

雨が上がり
虹が出れば
人々は家から飛び出して
泥を捏ねて塑像を造ります
雲間から漏れる光で 塑像を乾かし
虹の絵の具で 自在に彩ります
そうして出来上がったものを
人々は希望とよぶのです

今 少年がひとり空の彼方に虹を見つけて
一目散に駆け出していきましたよ
石に蹴躓いて 痛さにのた打ち回っても
再び立ち上がって駆け出していくのです
そうして ついに 疲れて膝を落としたところには
一面の向日葵畑が広がっていました
彼方には凪いだ海がのぞいていて
ふたつみっつの 島影も望むことができました

向日葵の葉に浮かんだ粒が
そのまま光の雫に変身して
雨水の良く馴染んだ黒土の上に次々と跳ねました
それは軽やかなリズムで
それは充実感に満ち満ちていて

向日葵畑の向こうに細い道が続いていました
水溜りが薄紅色の空を映していました
入江の傍に 黒瓦の堂々とした家並みが数十軒連なる
半農半漁の集落のようでした
家並みから炊煙が立ち上り始める頃
集落の中心に一台のバスが止まり
街で勤めを終えた男たちが次々と降りてきました
真白のシャツに麦藁帽子の影が落ちる男たちは
それぞれが立派な父親でもありました
バス停まで迎えに来ていた子供たちが父親からかばんを受け取り
やがて皆々 細路地に散っていきました

あるいは少年が見た風景は
永遠の安堵を夢見た大人たちが
雨上がりに築いた塑像だったのかもしれません
駆け出したのは 衝動だったでしょう
しかし今少年の足取りは格段にしっかりしております
少年の心には勇気が宿りました
それは 確かな希望がもたらしたものです

少年の疲れは一気に吹き飛び
もと来た道を帰って行きました


自由詩Copyright yumekyo 2011-07-23 22:21:22
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