ふたつの夜想曲
凛々椿

夏の日差し
夏の青
真っ白な街真っ白なふるさと
だれもいない街


あれから悲しみは痛みに変わりましたか?
痛みを知りましたか?
雪の記憶の声
いえ
ひとりぼっちでただひたすら歩く道は
今はずっと青い空の下にあり
まるで無音で
あの時とまるで変わらずなんにもないけれど
穏やかに悲しい目をしたあの人が
大丈夫
大丈夫だよと
香りを残してくれるので
まだ悲しいままです
ピアノが語る愛の夢は本当は愛の話じゃない
そう知りました




ざわりと 
嵐の後の夜は風が狂う
熱を帯びて


ほどなく世は落ち
あなたと同じ人たちがたくさん生まれました
あれから さみしさはやさしさに変わりましたか?
やさしさを知りましたか?
いえ
この道は花が咲くこともなく
だれかのはしゃぐ声も 今はまだないけれど
左目の下にあざのある人が
大丈夫 と
笑ってくれるので
まださみしいままです
だけど死者のふりはもうやめました
歩いて歩いて
もっと悲しいことを知って
きっと 本当に死ぬ日には笑っているでしょう
戻りたい日々には戻れないのです
離れた世界には戻れないのです
だから 先を急ぎます
だれよりも多くの悲しみを知って多くのさみしさを知って
いつか やさしくなれたらいい
おだやかに
たおやかに
ピアノが語る愛の夢は 本当はやさしい人の話なのだと
そう知りました







自由詩 ふたつの夜想曲 Copyright 凛々椿 2011-07-21 01:27:50
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