『ペットボトルの海に溺れる』
東雲 李葉

溺れる。
溺れている。

 ペットボトルの海に溺れる。
 水を喉に下す。束の間呼吸を犠牲にしながら。
 口を離して喘ぐように息を吸う。
 酸素を求めるはやい心臓。
 それは君と同じだから。
 肺いっぱいに吸い込んで吐きたくないほどに。
 無味の口づけ、でもすぐに互いの味。
 絡めるほどに溢れる。ぬるくてなめらかな水。

ああ溺れる。
溺れてしまうよ。

 足りない酸素、でも離れたくはない。
 求めるほどに零れる。あつくてしどけない液。
 だって足りない。
 呼吸ができない。君の息がなくちゃ。
 息継ぎをしたらすぐに沈んで。 下がらない水位。与えられるまま飲み干す。
 たった今、口を離してそう思った。
 魚になりたい。

溺れる。
溺れてはいけない。その海に。

 一秒でも長く泳いでいたい。
 そのために地上の呼吸を犠牲にしても構わない。



自由詩 『ペットボトルの海に溺れる』 Copyright 東雲 李葉 2011-07-20 01:33:51
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