『ペットボトルの海に溺れる』
東雲 李葉
溺れる。
溺れている。
ペットボトルの海に溺れる。
水を喉に下す。束の間呼吸を犠牲にしながら。
口を離して喘ぐように息を吸う。
酸素を求めるはやい心臓。
それは君と同じだから。
肺いっぱいに吸い込んで吐きたくないほどに。
無味の口づけ、でもすぐに互いの味。
絡めるほどに溢れる。ぬるくてなめらかな水。
ああ溺れる。
溺れてしまうよ。
足りない酸素、でも離れたくはない。
求めるほどに零れる。あつくてしどけない液。
だって足りない。
呼吸ができない。君の息がなくちゃ。
息継ぎをしたらすぐに沈んで。 下がらない水位。与えられるまま飲み干す。
たった今、口を離してそう思った。
魚になりたい。
溺れる。
溺れてはいけない。その海に。
一秒でも長く泳いでいたい。
そのために地上の呼吸を犠牲にしても構わない。