安泰
はるな

きのうは
鯛や牛肉をたべ
上等の酒をのみ
なめらかな衣服で
わらっていた
わたしが
三秒に一回
情事を思い出すことが
いけなかったとは
思わないけど
その考えが
救済のように思えたのには
ちょっと戸惑った
たとえばそれは
医師が死を呼び
神父が麻酔を打つようなもので
なにごとにも
ふさわしくないものが
あるのだと
思いました

大人

いうものに
およそふさわしくない
わたしが
服をきて
そのような振舞いをすることを
はやく
だれか
糾弾してくれたら
すこし楽になりますのに

へばりついた諦念や
遠い世界のこと
それらを
いまは打ち明けない
道徳や倫理を
ふみにじって
幸福を叫ぶひとを
指ささない

わたしは
もっとひどい

あなたたちの
何かを
願ったり
奪ったり
しない
そのかわりに
誰にも
ほんとうのことを
教えないという
安泰を
手に入れてしまった
手放したくても
捨てることのできない
だだっぴろい
安泰

青い畳の
においや
人々の
笑顔を
安心できる程度の
遠さへ運ぶ呪文を
知るかわりに
手に入れた
安泰
手放したくても
捨てることのできない
だだっぴろい
安泰

なめらかな
服のうえで



自由詩 安泰 Copyright はるな 2011-07-19 02:14:47
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