ホワイトで滅菌的なBurn
ホロウ・シカエルボク




溶解炉からゆっくりと流れだしてくる
ついさっきまでなにかであったさまざまなもの
強い熱が視界をうねらせて
喉を焼く臭いは断末魔さえサイレントに踊らせる
きみの手を取り世界の線路の上だ
おれは地図を知らないままの旅人で
いつでもそんなこころのなかでなにかが消滅する音を聞いている
ほら聞こえる、またなにかがあったというだけのものに変わる


滅菌的に白い壁の上に放たれた吐瀉物
美しいと思えばなんだってたいしたことじゃないさ
二粒の錠剤が気分を塗り替えてくれるなんて本気で信じたりなんかしてない
いつだってそいつの取り分はかなり利己的なものだったはずさ
静止したままスライドして滑り落ちてゆく
どんなに滑落してもどこにも叩きつけられない
お終いがなくて恐怖だけが脊髄に浸透してゆく
滅菌的に白い壁の上に放たれた吐瀉物


愛した小動物たちの骨が食卓の上でぎこちない愛を交わしている
ポケットの中の鍵みたいな音が非能率的に鳴り続けている
その音を聞きながらうとうとと目の中に見る夢は
どんなことをしても取り除くことの出来なかった膿に口づけをしてる夢
果てしなく変化する速度の中に一度握りつぶした写真のようなきみが居た
いびつなカスタネットは本当に口にしてはいけない言葉の代わり
誰も使わなくなった洗面器にうっすらと溜まったいつかの水溜りに
ふいに一滴落ちた非制御な感情のクラウン


数値化された眠りの中でおれの手を取ってくれたらいい
そうすればおれはきみのなかをどこまでも侵攻していけるのに
冷却された夏の夜があらゆる関節に違和感を上書きして
俯いたレコードのジャケットの下に隠れた小さな虫が舌打ちをする
眠らせてくれ、ただ静かに眠っていたいんだ
たとえ明日のカーテンを照らす朝日がプログラミングされた偽物だとしても
子守唄とは呼べないようなもので眠らせてくれたらいい
おれはきちがいだからまともな気づかいは苦痛になるばかりなんだ


天使たちは加齢しないことにどうしようもないいらだちを覚えて
運命の矢の矛先を少し致命的なポイントに変えて
ほんのちょっとした小競り合いが殺し合いにまで発展する
どれだけの撤去出来ない血液が街路を濡らせていっただろう
美しいと思えたらなんだってたいしたことじゃなかったはずさ
多方向に交差した横断歩道の上で白いハンカチを手にした人だけを撃つ
ハンカチが彼らの死の証明になってお終いは劇的じゃない?
良質な演出は済んでしまえばブルドーザーで処理していいことになってる


今度たくさんの花火が上がるからそれを見に行こう
たくさんの火が頭上で何度も何度も爆発するんだ
それを見て歓喜の声をあげよう、まるで幸せを享受出来る人種みたいにさ
もしも自分を殺すことが出来るならおれは花火がいいな
良質な演出によって非現実的に処理されてみたいな
弔われるよりは片付けられたい、死んじまった後のことなんか
逐一お願いしたって誰が聞いてくれるわけもないじゃないか
約束は出来る相手とだけするものだっておれはずっと思っているんだ


花火になって、花火になって、花火になって、花火になって
ひと夏でいいからファンタジックなきみの一枚になりたいな
和紙や火薬にまぎれて黒焦げたおれが降り注ぐけれど
きみは恐れないで髪や衣服に付着したそれを連れて帰宅してくれ
そして汗やほこりと一緒に鮮やかな白さを生む洗剤で洗濯してくれ
こだわり設定が出来る全自動洗濯機でおれを真っ白にしてくれ
花火になって、花火になって、花火になって、花火になって
「生まれてきてよかった」と言えるような白がもしもそこにあれば…


コーラスのいちばん細かい隙間を縫いながら
吐き出された吐瀉物たちが時間差的に描いてゆく詩情を
人生そのものだって言って、子供みたいに、人生そのものだって
サイレントな断末魔は結構ドラマティックなものだって
レクイエムは送ることなんて考えてくれなくていいから
参列した人間がこぞって眉をひそめるようなものにして
どんなことでもいいから一個の命への完全なる冒涜をかたちにして
和音だってどんなふうにも狂うことは出来るから


静止したままスライドして滑り落ちてゆく
どんなに滑落してもどこにも叩きつけられない
お終いがなくて恐怖だけが脊髄に浸透してゆく
滅菌的に白い壁の上に放たれた吐瀉物
いつしか激突を夢見るようになる
恋焦がれるみたいに完璧な加速と重力で摩擦に負けない衝撃を
生身の身体なんか絶対にどうにもならないような完璧な激突を
だけど慣れてしまえばそれは次第に減速していくように感じられるのだ


もしも激突して飛散してもそこで終わっていなかったらどうする?
ただの破片になったあとでまだ先が残されていたら?
おれは地図を知らないままの旅人なのに
身体に欠片になってどこかも判らない床に投げ出されたままでいたら?
数値化された眠りの中でおれの手を取ってくれたらいい
そうすればおれはきみの中をどこまでも侵攻していけるのに
ポケットの中の鍵みたいな音が非能率的に鳴り続けている
目は見開かれた、絶対的な寝床の中で


鮮やかな夢をください
眠ったかどうかなんてどうでもいいから




自由詩 ホワイトで滅菌的なBurn Copyright ホロウ・シカエルボク 2011-07-18 23:10:03
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