うぬぼれ
aria28thmoon
秋が好きだ。
それも秋と冬との境目のような、晩秋、とよばれるその季節が、好きなのだ。
とりどりに彩られた秋がおわる頃、色彩は透明へと収束してゆく。
だから、冬はあんなにも透きとおっているではないか。
美しい。
その透明へと向かうディミヌエンドが、遺される残響が。
やがて哀しく儚く消えてゆくだけ、であるのだが、だからこそ。
美というのは、そういうものである。
もみじ葉の紅が凍りかけた水溜まりの中で透けているのを眺めながら、私は最も愛すべき、しかしとても早足で去ってしまうこの季節にまたさようならを云う。
天気図にあった明日やってくるというあの雲が降らせるのは、もう雨ではないはずだ。
ほとんど消えかけた色彩たちの余韻を味わおうと、私は恐らく凝固点ぎりぎりの温度に冷えた水溜まりに手を突っ込んで、そこから異様に鮮やかな紅葉を掬い上げた。
ああ、愛しい秋の生き残り。
こんな他人から見ればきっと馬鹿げた感傷に浸っている、私がほんとうに好きなのはそういう自分自身のほうなのかもしれない。
秋のおわり、にかこつけて、ただの下らない自己愛に溺れている。
私は馬鹿なのだ、ほんとうに。