虹のない/あるせいかつ
コーリャ

ダイヤモンドより確かな一瞬に
石版みたいな青い空をみつける
だれの名前も刻まれることはないし
法律だって記されていない
ましてや
墓碑銘なんて思いもよらないのだ
だれかが今も死にいくなんて
信じさせない
まっさらな情景

地球は平面である
と信じられていた時代があって
円盤の縁には
世界の終わりにふさわしい瀑布がカーテンのように落ち込み
その下には
全てを飲み込むべく口を開けた怪物がいる
でも
ずいぶん前に失踪した台湾人の祖父曰く
それは誤りで
たしかに滝はあるのだが
盤を支えているのは数匹の巨象だという
象は人を食べたりしない
「でなければ」
と彼は言った
「海は干上がってしまう
鼻先から水を噴出して
海水を絶えず補充しなければ
流れ出る滝のおかげで
海は干上がってしまう」
そして
果てまで行き着き
世界から落下する旅人は
今まで見たどれよりも
はるかに大きな虹を
最後の地平に発見する

すこしだけ世界が揺らいでるのを感じるときがある
それはべつに地震がどうとかいう話ではなく
ただほんのすこしだけ
世界が不確かになっていくと感じるときがある
たくさんの風船がいっせいに空に放たれるときとか
夜の公園でひとりでにブランコが揺れるときとか
急行列車が駅をすりぬけていくときとか
花火大会の帰りとか

すこし個人的な話をする
あなたの話をする

金魚鉢の水を換えるときに
誤って手からすり抜け
床に激突して
砕けちったガラスで星図ができた
赤いガス群に
あなたはくるぶしをひたした
ゆらめく陽光のカーテンに
ゆっくりと干上がっていくあいだ
ぼくは窓の外に広がる
森をながめていた
なんとなく

誠実ってどこにあるんだろうね
違う銀河系の星に埋まってるんだろうか
未発見なんだろうか
この星は地球なのに
たくさんのビルが悪の怪獣にみえます
ひとびとをその感情ごと
ふみつぶそうとしてるんだとおもいます
そこで何食わぬ顔でせいかつする
ひとびとは
悪の怪人にみえます
あなたを筆頭に

虹の始まりは燃えている
虹の始まりに狐たちの嫁入りがある
虹の始まりに宝物が埋まっている
虹の始まりには絶望がある

緑の宮殿のような山脈の前には
緑の城下町のような草原
遠くの柵には光がやどって最後の何かを守っている
風がわたって
ぼくらの手の甲と甲が
戦闘機みたいに交わされ
戦争が起きて
たくさんの人死にがでた
雲が白旗のようにたなびいているのに

橋の赤く錆びた欄干に
よりかかりる
その水流の光に盲いたように
ずっとみつめる
世界が所持するものが
信用ならない
いなくなったあなたを筆頭に

でも
世界は終わらない
いつでも
青空は石版みたい

カフェでローストポークを食べる
友達は死人について話していた
窓ガラスに虹が写りこんだ
ふりかえれば
そこにはなにもない
青い空があるだけだった

たぶん
いずれにせよ
象は水を与え続けている
それが止むまで世界は終わらない
どれだけ不確かだろうが
あなたが一生いなかろうが
世界がほんとは球体だろうが
象たちが
いるかぎり
世界はどうしようもなく
終わらない
だから

とうめいな水の降雨のあと
とうめいな虹が
石版に刻まれていく
それを見てみぬふりをして
思い出をすこしづつ
忘れていく
それがぼくらの
かぎりあるせいかつ


自由詩 虹のない/あるせいかつ Copyright コーリャ 2011-07-08 16:22:31
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