こいし
村上 和

急いでって君の手をとって
駅の階段を駆け上る
発車のベルは鳴り止まない
このままこの階段で
いつか波音を聴きながら二人で眺めた丸い月まで
登って行くことは出来ないだろうか



お別れの電車を見送る時は
シートにもたれる小さな背中を想像して
そこに小さな羽をつけてみる
じゃあまたねって言ってくれたから
じゃあまたねって名前をつけて



二人で通った行きの道を
一人で通る帰り道
もっと違う話をすればよかったと
恋詩を蹴りながら帰るなんて
まるで中学生みたいだな
夕焼けの薄いオレンジのなか想う



朝焼けの薄いオレンジのなか
君の声が聞こえた気がして
独りベッドの上で眼が覚める
この手に確かにあった温もりは
砂のようにこぼれてしまったみたいだ

 ほら、本当にサラサラだよ。
 と砂浜の上

君の声がまだ聞こえる



君が優しかったから

君が笑っていたから



さよなら。こいし
じゃあまたね。


自由詩 こいし Copyright 村上 和 2011-07-02 21:25:47
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