小瓶
yumekyo
知り合いが
旅行のお土産を見せてくれた
腰のカーブが柔和で
咲き誇る冬牡丹があでやかな
九谷焼の小瓶だった
手のひらに載るぐらいの小ささだけども
存在感ははっとするほどで
食卓の席に添えれば
そっと上目遣いの
うら若き麗人に見えそうだ
かつて となりに
美しい女性(ひと)がいた
北国の古都から
京に紫の花を求めに来ていた
7月8日生まれの女性だけが持つ
激しい天空の逢瀬の残響としての
眩い星の欠片が内面を照らした
黒くしなやかな髪を下ろして
輪郭のハッキリしたふたつの瞳から
真っ直ぐで透明な光を放つ
言葉を知らないわけじゃないのに
あの子はそんな求め方をした
そばに引き寄せると
あの子は途端に小さくなった
そして手のひらに載って
そのまま肌に吸い込まれて
体中を駆け巡る
そうして僕の瞳にあった
燃え滾る欲の竈から薪を引き抜いて
かわりに涼やかな視線を置いて
頭のてっぺんから外に出た
いつの間にか
恨みつらみや下心を押さえ込んで
写真の真ん中にも写ることができるようになった
かねてから一番欲しかったものが手に入って
僕は覚醒をしたのだ
あの子からもらった涼やかな視線を
さながらコンタクトレンズのように手入れをして
使わないときは埃が入らないように仕舞っておく
容器に困っていたところだ
あの子からもらった視線だから
あの子が育った街のものがいい
だから 雪が溶けてしまったら
僕も九谷焼の小瓶を買いに行こう
花柄は性に合わないから
もう少しシンプルなデザインのヤツがいい
(原作は真冬に書いたため、季節はずれ)