今日ノ夢 
服部 剛

午後の体操が始まると 
もの忘れのお爺さんは 
何かを思い出したように 
皆の輪からむくっと立ち上がり 
部屋の外へ歩き出した 

つきそいながら隣を歩き 
途中でソファに腰を下ろして 
ガラス工場で働いた日々や 
趣味の天体観測について   
30分ほど、ゆっくり聴いた 

「部屋の方で皆がピンポン、やってますよ」 

「よし、いってみようか」 

ソファからむくっと立ち上がった 
僕等は並んで 
歓声の聞こえる卓球場へ、入っていった 

卓球台の前に置かれた2つの椅子に 
僕等は腰かけ、かたい握手を交す   

ピー!と笛が鳴り 
ネット越しに立ちはだかるような 
つわもの婆ちゃん2人と 
僕等の間を 
ピンポンは、飛び交い 
点を取ったり、取られたり 

マッチポイントの崖っ淵で 
お爺さんのミラクルスマッシュが 
可笑しなはね方で 
つわもの婆ちゃん2人の細い間を 
抜けてった・・・ 

「ばんざーい!!」 

思わず椅子から立ち上がった僕は 
背後から、お爺さんの両手をいっぱいに上げた 

仕事帰りのバスに揺られながら僕は 
とっぷり陽の暮れた 
闇の車窓のスクリーンに 
あの勝利の瞬間を映しては 
いつしかこくり、転寝うたたねをしていた 







自由詩 今日ノ夢  Copyright 服部 剛 2011-06-04 20:46:21
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