誘拐かすてえら
渡邉建志

「ああ、やんなっちゃうな」
ある日クラウディは早く着いた塾の窓辺で空を見上げて呟いている
こうやってボウッとしてる間にも着実に迫るそれが虹試験なのだ
そこにどこからともなくぬぼっと現れる紳士
「ああ、とっても素敵!」
クラウディは叫びながらハサミも糊もムーンライトクッキーも
かばんの中のものを全てほうりあげてしまう
目の前にいるのは憧れのアラ・カステエラ氏
薔薇としいたけを抱えて佇んでいる
カステエラ氏の甘い微笑は教室に溶け出して
クラウディはもうメロメロ
「センター試験の失敗なんて糖分で吹き飛んでしまえ!」
と説明口調で口走りながら
クラウディはアラ・カステエラ氏の胸にひとっとび
こうして二人の逃避行が始まる
と思ったが
「参考書持っていく、ほんとほんと」
カステエラ氏がポルトガル語口調で指摘
いそいでかばんに詰め込んでふたりは飛び出す
カステエラ氏の亜空間は窓から始まっている
そこはパチンコ球がビュンビュン跳んできてスリルいっぱい
そして
アラ・カステエラ氏のスポンジスーツは球を絡めとって止まない
そう今がかきいれどきなのだ
亜空間が抜けたそこはモンドパチンコ
人々はパチンコを愛して止まない
街にはさきほどより静かにパチンコ球が跳んでいて
クラウディの目にきらきら光ってうつる
「ほら、そこの木に今ぶつかったよ!こんどはあの交差点だ!」
モンドパチンコの時間はとても遅くながれる
クラウディもカステエラ氏も午後いっぱいパチンコに興ずる
それでも向こうの世界の10倍も勉強できるのだ
あの時カステエラ氏が参考書持ってけって言ってくれて
ほんとよかったとクラウディは思う
虹試験は空の向こう
向こうではみんなが焦って勉強してるけれど
わたしにゃまだまださ


自由詩 誘拐かすてえら Copyright 渡邉建志 2011-06-03 02:19:16
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